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新星のアズリ  作者: 赤城イサミ
【エピソード3】 一章 新人船員
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新人船員【5】

「その話はまた後にしてくれ」

 六瀬は軽く咳払いをし、少し強めに言った。

「ああ、すまん。で、文明の痕跡についてだが、もう一つ思った事がある」

 ヴィスは、もういいだろ、といったジェスチャーを多々良に向けて、話を戻した。

 多々良も直ぐに気持ちを切り替え「まさか、海の向こう?」と反応した。

「ああ。六瀬、お前は大陸の地図を見た事があるか?」

 多々良の問いを肯定し、話を六瀬へ振る。

「勿論だ。半分だけだがな」

 これを知ったのはキャニオンスライム作戦の時。

 ルマーナとの作戦会議で見せられた地図を見て、漸く違和感に気づいたのだ。

 それは緯度と経度。


「広い大陸も緯度と経度を見れば半分しか無いと分かる。では何故半分しか無いのか。それはその先に行けないからだ。見えない壁でな」

「何? では海を渡れないのか?」

「そうよ。星の丁度真ん中から先には行けないわ」

「冗談だろ」

「大気や海水は自然のままに流れているんだが、人や大型の生物、それと空船の様な物質は通る事が出来ないと聞く。限界まで上昇しても無駄みたいでな、ゴムの様な抵抗があって、それでも進もうとすれば原子レベルで分解するらしい」

「分解……だと?」

「実際には見えない壁じゃないの。薄っすらとだけど見えるわ。見え方は透明な絵の具が混ざる感じ。それに抵抗感もある。近寄らなければどうと言う事も無いの。これは上の亜空間とは違う現象なのかもね。……違う、かもじゃないわ。明らかに違う」

「地上でもそんな事が……」

「何かしらの痕跡があるとすれば、その壁の向こう側に多く存在してるかもしれない。この星の様に、何かを守っている様にも感じるからな」

「向こう側にも人は居るようだし、もし渡れるなら何か分かるかもしれないわね」

「人? 何故居ると分かる」

「奴隷よ」

「……人身売買の際、時折見た事も無い民族衣装を着た女や子供がいるんだ。海の向こうから連れて来てる、と噂で聞いたことがある」

「噂じゃないわ。ネードには僅かだけど奴隷が居るの。規制はされてるけど、多少は目をつぶってる感じね。一度だけ売人が競りをかける場面を見たわ。その時に聞いたの。あの服の子って何処の国の子って。そしたら、海の向こうから連れて来る商人がいるって言ってたの」

「では渡れる、という事だろ」

「それがね。その奴隷商、誰にもその秘密を話さないらしいのよ。しかも、一部の人しかその奴隷商と会った事なくて、何処の誰かも分からないって話」

「向こう側に行くなら、そいつを探すしかないって訳だ」


 亜空間の謎は結局、第三者の技術を示唆し、痕跡の有無を検討させた。

 それに派生して、星を真っ二つに分断する壁と別の大陸。

 これもまた第三者の技術が示唆され、それに関与しているかもしれない奴隷商。

 海の向こうに住む人類の存在と、第三者の狙い。

 そして個人的興味としてのアズリとティニャ。

 この一連の会話の中で、また新たな情報が流れ込む。談論と推測が新たな問題と謎を生む。

 面倒事ばかりだが、六瀬としては非常に興味深い情報ばかりだった。

 予想以上に早く見つかった仲間。そこから得られた情報は有意義な物だ。

 見た事もない生物や自然。不可思議な星と現象。

 面白い事この上ない。


「ヴィス。お前なら探せるか?」

「努力はしてみる。だが、こっちも忙しい」

 ヴィスはやれやれといった感じで答えた。

「お前の目的、いや、やりたい事は何だ?」

「俺はこの国を修正したい。幾らかマシになったが、まだまだだ。人脈を築き、最終的には他の国も修正していくつもりだ。人はいつも同じ過ちを犯す生き物だ。この星を永地とするなら、それを可能にする人と国でないと、それは叶わない」

「同意するわ。せっかくの大自然。共に生きる選択をして貰いたいもの」

「そうだな」


 三者の気持ちは同じだと感じた。

 星を食いつぶす人類は、もうここで終わらせないといけない。

「亜空間を作った第三者が居るとすれば、協力して貰いたいものだ」

 六瀬は言った。

 するとヴィスは馬鹿にした様に鼻先で笑った。

「敵か味方か分からないのにか?」

「この星を守っていると考えれば味方だ」

「どうだろうな。多々良を襲った相手もいるんだ。その第三者……の可能性もあるだろ?」

「多々良を襲った奴は俺達の同類だろ」

「簡単には断言出来ない。……で、どうなんだ? 多々良」

 ヴィスが問うと、多々良は「へ?」と他人事の様に答えた。


「……さぁ……分からない。覚えてるのは目覚めてからの二年間。そしてスリープする直前から、六瀬に回収される時まで。それ以外の記憶は殆ど復元出来なかったの」

「停止する直前に、誰かに気を付けろとか言ってたんだが、やはりそれも覚えてないのか?」

 と、今度は六瀬が問う。

「外部メモリーの破損は大部分の記憶を消してしまったから……。修理している段階で出来る限り復元しようと試みたようだけど、無理だったみたい。だから誰の事を言ったのか分からないわ。日常生活で必要な知識はメインに保存してたから無事だったけど、襲われた辺りの記憶はまだ外部にあったからね、ごっそりと消し飛んじゃった。でも努力してくれたんだもんね。ありがとう。カレン」

『機能停止した時点で徐々に記憶が消去されていたようです。ですが私の力不足は否めません。……力及ばず、申し訳ありません』

「いいの。いいの。直して貰っただけでも嬉しいから。それになんだか前より綺麗になったような気がするしね」


 この辺がレプリケーダーの人格、PCAIにおいて不便だと思わるオプションだった。

 レプリケーダーには人の様に忘れたり思い出したりする機能として、外部メモリーが存在している。

 任意に内部……メインメモリーへ記憶させなければ忘れてしまう可能性があるのだ。

 思い出すという行動が、外部メモリーを探るという行動になる。

 全て人の様に自然に出来る作業だが、正直言っていらない機能だ。

 人と同じ思考回路を持つと言う事は、様々な不便が付きまとう。


「いずれ分かるだろうが、どちらにせよ気を付けた方が良いな。俺も後頭部を撃ち抜かれたんだ。何かしらの敵は存在する。まぁそれで目覚めた訳だが」

 ヴィスが目覚めた時、船外では幾人もの人間が死んでいたという。

 遺物船の奪い合いがあったのかもしれないとヴィスは言っていた。

 しかし、一発だけ遺物船に向かって発射された攻撃は、的確にヴィスの頭を横から撃ち抜いていた。幸いな事にPCAIは破損しておらず、様々な機能の不具合のみに止まった。

 遺物船ごと撃ち抜ける銃をその死体達は所持しておらず、別の誰かが騒ぎに乗じて行った行為だと判断した。

 その攻撃でポッドは使い物にならなくなった。

 その誰かが戻って来るよりも先にこの場を離れなければと思い、無事だった【Armed(A) construc(C)tion system(S)】と特殊武装だけを持ってひたすら走り、そしてこの国にたどり着いたのだ。

 因みに落ちた場所は荒野、タワーロックだったという。


「これからもそのヘアースタイルでいくのか?」

 昔と違う雰囲気の髪型、オールバックについて六瀬は問う。

「似合っているだろ? 開いた穴を隠す為だったが今では気に入っている」

「本気で言ってるの?」

「本気だ。これでも評判は良いんだ」

「誰のよ」

 囲ってる女達だろ? と六瀬はツッコミを入れたくなったが、やめた。


 ヴィスは多々良の不機嫌なセリフには答えず、腕時計を見た。

 そして「……すまんが、俺はそろそろ屋敷に戻る。随分長い間留守にしていたからな。仕事も山積みだ」

 と言って立ち上がった。

「私もそろそろ帰らなきゃ。何度も起きてぐずる子いるから。出来るだけ一緒に居てあげないと」

 多々良もカップをコトンと置いて立ち上がった。

「ああ。時間取らせて悪かったな」

 二人にも日常があるのだ。

 もう少し話していたかったが、今日はここまでとしようと思う。

 多々良は「じゃ、今度は仕事で会いましょ」と言って部屋を後にした。

 ヴィスも遅れてカップをテーブルに置き「続きはまた今度だな」と言って帰路につく。しかし、部屋から出る直前に振り向いてこんな事を言って来た。


「そうだ六瀬、この星の時間について感じた事は無いか?」

「ある。基本システムの時間計算と同じだ。一日は我々の星よりも若干長い」

「十二進数。星のサイズは違うが日の巡りはあの地球とほぼ一緒なんだ。面白いだろ?」

「ああ。知った時は驚いた。人類のスタート地点へ戻った気分だ」

「まぁ、ここは地球じゃないがな」


 地球……。

 歴史では美しい星だったと書いてある。

 映像も見た事がある。そして死を迎えた映像も見た事がある。

 惑星カレンも同じ運命を辿るのだろうか。

 いや、そうはさせない。そうあってはならない。

 何度も思う……人はもう、同じ過ちを繰り返してはならないのだ。


 六瀬は一人、皆のカップを持ってキッチンへ向かった。

 シンクには水に浸けてある食器があった。


――洗っておくか。


 六瀬は二人分の食器を洗い始めた。

 キャニオンスライムの件以降、アズリは一緒に食事を取る様になった。

 つまむ程度だし長居はしないが、料理の感想を求め、ルマーナの店に行く予定はあるのか等と聞いてくる。

 相当ルマーナの店が気に入ったのだろう。

 行く機会があれば連れて行ってやろうと思う。


 六瀬は赤と青に分かれた、まるで夫婦のような食器を水切りかごへと置いた。

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