全てが同じなのに、性別違いの私がもう一人居る世界【16】
……ぐむぅ。
つまり、結局やっぱり大きな違いは性別だ。
そして、私が男であった場合がリガーであり、女であった場合がリダ……つまり、私だ。
この上で考えると……リガーも男である以上、ユニクスは純粋に単純に可愛い女の子として見る。
……と、言うか『見えてしまう』んだろう。
これは、私が女であるが故に、顔面偏差値が頗る高く、そこに付け加えてスペックまで高い男子が身近に居れば、素直に格好良いなぁ……と感じるのに通ずる物がある。
極論から述べると……もし、私が男であったのなら、ユニクスは身近に居る可愛い女の子と言う、極々オーソドックスな存在になってしまうのだ。
……なるほど。
蓋を開けると、存外シンプルな理由だな。
思えば、私とてユニクスを根底から嫌っている訳ではない。
ただ、少し嫌悪感が強いだけだ。
それだって、同性相手に果敢なアタックを変態チックにやって来るからこそ嫌悪するだけの話。
実は奥手な一面を持っていて、少し草食系が入った、ナチュラルに穏やかなイケメンだったのなら、私の態度も大きく激変するに違いないのだ。
そして、リガーの場合は完全にそれが一致する。
「……そうか。すると、私も性別が仮に男であったのなら、ここまで悩む様な事はなかったと言う訳か……」
「そう言う事だな?」
両腕を軽く組みながら答えた私の言葉に、リガーは快活な笑みを交えて声を返して来た。
同時に思う。
やっぱり、コイツは私なのだな……と。
未だ納得の行かない部分が点在する物の、私を男と仮定した時のシミュレーションなんぞを、軽く頭の中で行うと……なんだかんだで納得出来てしまえる部分が多いからだ。
そうなると……やはり、私は男として生まれて来た方が、何かとハッピーに生きる事が出来たのかも知れない。
……くそ。
しかしながら、あのジャングルめいた部屋に居たくはないし、あっちのアリンにはお洒落の楽しみはおろか、ビミョーに清潔感すらなかった。
交遊関連で言うと、リガーであった方が何かと良い部分もあるけど、私生活やアリンの育児関連を考慮すると、やっぱり私は女で良かったのかも知れない。
それにしても……生まれた時に決まった性別が違うだけで、こんなにも変わってしまう物なんだなぁ……主に私生活が。
否、もしかしたら、性質とかも少し違う気がする。
なんて言うか、コイツは物凄く楽観的だ。
今も、自分の住む世界ではない、言わば異世界へと放り込まれていると言うのに、呑気な顔して昼食を取っている。
余談だが、ここから間もなくフラウが熱烈なアタックを掛けて来たのだが、
「こっちのフラウも可愛いな? 相変わらず笑顔が眩しくて、とびきりの美人してるぞ?」
リップサービスなのか、本心なのか? そのどちらにも感じる様な台詞を、しれっと普通に口から吐き出していたりもするリガー。
もう、ここまで自然な状態で社交辞令以上の誉め言葉を言う事が出来ると、単なるお調子者にしか見えない。
「え? わ、私……か、可愛いかなぁ~? えへへー♪」
そして、フラウもまんざらではないから困る。
つか、性別違いの私に対してやる態度ではないと何度……。
内心では、大きく呆れている私ではあるのだが……ここは敢えて何も口にはしなかった。
理由は簡素な物だ。
もうすぐ、リガーはこの世界から、自分の居た世界へと戻って行くのだから。
一応、今回の発端を作り出したアホな悪魔達二人とは、放課後に会う約束をしている。
もちろん、そこでリガーを元の世界に返す様に言うつもりだ。
そうなれば、最速なら今日の放課後……遅くても近日中にはこの世界から離れ、自分の世界へと戻って行く事になるだろう。
「……まぁ、短い恋だ。せめて今は暖かい目で見守ってやろうか」
かなり妥協めいた声音を口から漏らす私が居た頃、アリンが陽気な笑みを作りつつも、リガーへとじゃれる様に飛び付いて、最終的にはダッコされていた。
そんな二人は、とっても楽しそうだった。
……なんか、こう言うのも悪くないな。
正直さ?
やっぱり、片親してるとさ?
愛娘が、他の人間に大きくなついていたりすると、気分が悪いんだよ?……本当はさ?
けれど、やっぱりリガーは私で。
私はリガーであって。
そうなれば、アリンがリガーになつくのは自然の流れになるし、娘にとって私は私でしかなく、性別なんか男であれ女であれ、親として見てくれるんだなぁ……と、むしろ喜ばしくもある。
ただ……思った。
やっぱり、アリンにも男の親は居た方が良いのかなぁ……と。
かなり曖昧で、ぼんやりとではあったけど……思えた。
今の二人の姿を見ると、やっぱり父親の存在って大切なのではないか?……ってさ?




