リダさんの追憶【10】
......ただ、思う。
「なぁ、ルミ?」
「? 何? リダ?」
もし、前世との因果関係が次世にも影響していて、その関係でルミと再び友達として今、巡り合っているとするのなら......。
「理由は聞くな。取り敢えず、うんとだけ言ってくれれば良い」
「??? まぁ、いいけど?」
サッパリ、事情が分からないと言うばかりのルミがいた所で、私は口を開いた。
「ごめんな、ルミ。本当......私ってば優柔不断で」
「優柔不断? 良くわかんないけど、うん」
ルミは頷くだけ頷いてみせた。
多分、とにかく『うん』と言えと言われた私の言葉に忠実な答えを返して来たのだろう。
これで良かったのかどうかは分からない。
けれど、少しだけ気が軽くなった。
「変なリダ。いつもおかしいけど、今日は更に変だね」
「いつもおかしいのは余計だ! 今日がおかしいのは認めるがな!」
「ふふ。なんだか知らないけど、大丈夫だよリダ」
ルミは、そこでお姫様特有とも言える、ロイヤルな笑顔を眩しいばかりに見せて来た。
「私は、どんな事があっても、絶対にリダの友達でいるし、私は絶対にそうしたいって思ってるから!」
「......ルミ」
何故だろう?
自分でも知らない内に、涙が出た。
なんとなく......本当になんとなくだけど、私が前の世界に生きていた瑠美って子も、きっと同じ事を言ってくれる......言うんじゃないかなって、本気で思えたんだ。
正直、今の私には関係ないと言うか、全く身に覚えのない事なんだが、昔の私は親友を大きく裏切ってしまうんだ。
さっきの夢の中での話だ。
あの夢から数ヵ月後の話だ。
私は、幼馴染みと付き合ってしまうんだ。
その幼馴染みは......現世でもやっぱり幼馴染みをしていた人物。
アインだ。
あっちの世界では相原蓮って名前だった。
その相原蓮を好きになって、しっかりと交際までしていた、私の親友。
だけど......。
私は、その親友を裏切って、蓮と付き合う事になってしまう。
完全な裏切り行為をしてしまった私は、その後......親友の絆を自ら破壊し、喧嘩別れする形で長期連休へ。
その後、常世への片道切符を手にしてしまった瑠美は......私達の前に立つ事はなかった。
結果、私は親友と最悪の形で今生の別れをしてしまったのだった。
そして、現在。
実際の所は分かってはいないけど、それでも可能性を加味した上で私はルミに頭を下げた。
きっと、今のルミが瑠美であったとしても、その記憶がないのだから、いきなり謝って来た私の意図を読み取る事など不可能だろう。
だが、それでもルミは言った。
どんな事があっても、絶対に友達でいると。
この言葉に私の心が大きく救われた。
......本当、涙が出た。
正直、何やってるんだって、自分でも思うんだけど......はは、けどさ? 嬉しかったんだよ。
だから、思う。
今度こそ、ルミを悲しませちゃ行けないって!
次こそ、ちゃんと親友らしく彼女と向き合って行こうって!
かつてあったのだろう、私のわだかまりが......何となく、一つ消えた気がした。
●○◎○●
時間は過ぎて。
「なんだかんだで、チズさんって面白い人だよねぇ」
チズの住むアパートに向かった私とルミの二人は、そこで楽しい時間を過ごした。
気付いたら、もう夕方だ。
「そうだな。なんてか、予想以上に明るい人だよな? チズさんってさ」
ルミの言葉に、私はやんわりと肯定した。
暗殺者だって思っていたからなんだろうけど、実際にチズさんと触れ合ってみると、底抜けに明るいお姉さんって感じだった。
色々、気苦労の絶えない人生の連続だった筈なのに、その過去があったなんて信じられない位に明るい女性だった。
そう考えると、ジャンがチズさんの事が好きな理由が分かる気もする。
そして、底抜けに明るい表情を心から浮かべる事が出来るのは、期待の持てる明日があるからなんだろう。
今まで......本当に散々で、あんまりな人生を過ごして来た二人。
けれど、ずっと過去に囚われてばかりいたら、何も始まりはしない。
過去は過去として、自分の心に刻み......そして、希望の持てる幸せな未来を見出だす事が出来た二人。
今までは、どんなに努力しても無理だったかも知れない。
今までは、どこまで言っても絶望の二文字しか待ってなかったのかも知れない。
......だが。
今は違う。
ちゃんと努力すれば、希望のある未来に向かって頑張れば、確実に幸せになれる!
「よかったな、チズさん、ジャン......これからが本番だ、頑張れ」
今度こそ幸せになれるだろう二人に、私は呟く様に......そっとエールと送ったのだった。




