リダさんの追憶【1】
人混みの中、いつもの様に電車に乗って、いつものホームで降りて、これまた通い慣れた道を歩いて行く。
何一つ変わらない普遍的な日常。
退屈と言えば退屈かも知れないけれど、あたしはそれで困った事はなかった。
面白い毎日とは確かに言えないかも知れない。
けれど、それと同じ位、つまらないとも思わなかった。
「おはよー」
「うん、おはよう」
通い慣れた校舎に来ると、やっぱり見慣れたクラスメートの声が、変哲知らずの挨拶を私にして来る。
あたしもやっぱり同じ感じで、いつもと同じく朝の挨拶をして見せる。
そこからとりとめのない会話が始まる。
会話の内容は様々だ。
昨日のドラマの話しだったり、友達の話しだったり。
ネットの動画やSNS、インスタやツイッターで話題になっている事を話す時もある。
ああ、そう言えばそんなのあったな......と、頭で思いながら会話に混ざって行くあたしがいた。
やってる事は、平凡な事。
特別な物なんか何もなくて、予測の範疇で全てが終わってしまう、当たり前の事。
そんな日常のヒトコマを毎日毎日繰り返して。
きっと、今日は明日の繰り返しで。
それでも、悪くはない生活なんだろうなぁ......と、ぼんやりと考えて。
こうして私の日常は、今日も平々凡々に過ぎ去って行く......筈だった。
あたしの日常は、唐突に終止符を向かえる事になるなんて、この時の私には全く予想もしなかった。
.........
......
...
.........はっ!
何だ今のはっ!
なんだか良く分からない光景があった。
ハッキリ言って異世界と表現しても間違いない、色々と発展した文化のある世界が、当たり前の様に存在していた。
もちろん、私が知る世界などでは無かった。
なかったんだけど......。
うーん......なんだろう?
「凄く前に、私はあの世界で生きていた様な......?」
そんな事を考えつつ、軽く腕組をしていた時だった。
「おはよう、リダさん。相変わらず、私の授業は子守唄にしか聞こえないのかしら?」
ヒクヒクと口許を引きつらせながら、怒りを完全に堪えている、厚化粧な女が......ああああっ!
「罰として、そこの精霊語を全て人間の言葉に訳してから、みんなに説明してもらおうかしら?」
精霊語を担当しているおばちゃん......もとい、ちょっとだけ化粧が厚いお姉さんは、私に向かって怒りのオーラをおもむろに出しつつも、黒板に向かって指をさしてみせた。
くそぅ......油断した。
大体、学生の......しかも、一年の精霊語とか簡単過ぎて、私からすればただのお遊戯なんだよなぁ......くそぅっ!
とは言え、実際に居眠りをしていたのは事実だしなぁ。
文句を言う事も出来ない......くそぅ。
仕方ないので、黒板に書かれた精霊語をツラツラ読んでは訳してみせる。
......うむ。
至極当然の如く、笑ってしまうまでに基本的な文法を使った精霊語が、超絶シンプルに書かれている。
やれやれ。
私的に言うのなら、これが読めない様なら、最初から勉強するのに学校へ行けと言いたくなるぞ。
......ああ、そうか。
ここがその学校だった。
......…。
私は地味にボケた事を考えつつ、精霊語を訳しつつも説明して行くのだった。
●○◎○●
「本当、リダって優等生なのか、劣等生なのか分かんないよねぇ」
ルミは、白パンをかじりながら、しみじみと答えていた。
それは、絶対に誉めていないよな......?
「別に、私は優等生をする気もないし、かと言って劣等生をする気もないんだけどな」
例によって、もはや定番となった中庭での昼食を取っていた私は、これまた定番とも言えるだろうとりとめのない会話をしていた。
最近のルミは、たくましくなったと言うか......とにかく足も早くなり、白パン争奪戦に負ける事が無くなっていた。
本当、こんな所にも姫様の成長を感じる。
そこから、例によってフラウが私達の元へとやって来る。
間もなくユニクスもやって来た。
もう、本当にここら辺はいつも通りと言って良くなって来ているな。
もはや、日常の一つと述べても過言ではない状態に、今日も同じくなっていたのだが......。
「リダ様」
ベンチに座り、いつもの様に昼食を口にし始めた所で、ユニクスは短く私に声を掛けて来た。
いつになく神妙な顔付きだ。
理由は......まぁ、分からなくもない。
多分、ユニクスが前々から言ってる相手。
『彼』の事について、話しをするつもりだったのだろう。




