激戦! リダさん、どうしてかイリさんと戦う【7】
こりゃ、姫様に勝ち目はないな。
ふと、キイロにとって恋敵に当たるだろうルミの事を軽く思い出し、肩をすくめた。
まぁ、良いさ。
ルミが失恋した時は、一緒にどっか旨い料理が食べれる店にでも行くとして。
私はイリへと回復魔法を施そうと魔導式を頭に紡ぎ始めたが、
「あ、回復はさせなくても良いです」
途中でキイロに止められてしまう。
......何でだ?
「どうせ、回復したらいきなりリベンジとか言いかねないですから」
にっこり笑って言う。
......確かに、本気で言いかねないな。
「俺はそこまで往生際の悪いヤツじゃねぇよ」
キイロの言葉にイリは眉間に皺を寄せていたけど......回復魔法はしないでおいた。
どうにか話が纏まりそうだった所で、またふりだしに戻されても困るからなぁ......。
回復魔法をキャンセルした私は、周囲を見回した。
一応、私を狙っていた二人の暗殺者は......ああ、いたいた。
偶然か? それとも必然的に見張っていたのか? 二人の暗殺者はユニクスと一緒に立っていた。
何にせよ、逃げられても困るから、もし逃げない様に引き留めていてくれたのなら、ユニクスに感謝しないと行けないな。
......でも、このレズに感謝の気持ちを示すと後が怖いな。
まぁ、ユニクスが調子に乗らない程度にお礼を言って置く事にしよう。
私は、座り込んでしまったイリと、そんなイリをいとおしく抱き締めるキイロに軽く手を振ってから、ユニクス達がいる方へと向かった。
「まずは、逃げないでちゃんといてくれた事に感謝して置く」
二人の暗殺者を一瞥してから、私は愛想良く頭を下げた。
「......い、いえ。どの道、逃げたくても逃げれなかったですし」
そうと答えたのは、ゴルゴンのチズだった。
他方のジャンは意識が回復しておらず、未だチズの胸元に収まってる状態を続けていた。
こっちは、意識の回復を待ってからでも問題はないだろう。
ともかく、今はちゃんと会話が出来るチズと話をする事にしようか。
チズは、普通の人間にしか見えなかった。
実際、ゴルゴンの血筋だと言うだけであって、根本的には人間なのだろう。
ステアノの祖先とは言え、そこから千年は経過しているのだから、もう限りなく人間と表現した方が妥当と言えた。
「そうか。やっぱりユニクスが見張っててくれたんだな」
「当然です。リダ様はこの二人の為に戦っていたのですから......その当人が逃走などした日には、リダ様の努力が全て無に還ってしまいますしね」
ユニクスは胸を張って答えていた。
「取り敢えずは、ありがとうと言って行こうか?」
「勿体無い御言葉......痛み入ります。では、そのお返しに私の愛をっ!」
ドォォォォォォォン!
ユニクスは爆発した。
こうなる事が予測出来ると思うのに、それでも私に変な意味での愛情を求めて来る。
......懲りないヤツだな!
「愛は、爆発ですっ!」
爆発するのは、お前と芸術だけで結構だ。
ともかく、見張りご苦労とだけは言って置く。
そっと、心の中で。
「......」
チズは蒼白な顔になって絶句した。
「あ、チズさんだったか? あんたは爆発しないから大丈夫だ」
私は警戒を解かせる為に、敢えて穏和に語った。
さっきのイリと私の戦闘を見てらからか? チズに戦意は感じられない。
けれど......なんてか、どうにも私への警戒心だけは未だに根強く残っていた。
そりゃ、暗殺者として私を狙っていたんだから、その当事者を警戒するのは当然の事だ。
完全に取り除く事は無理なのかも知れない。
「私は、あんたらと話がしたかった。それだけなんだ」
無理だとは思ったが、それでもなるべく警戒を解いてもらう努力をそこかしこに見せながらも、チズに声を向けて行く。
「話? 私達に何をしろと?」
「そう言う話じゃない。私は単純に昔話を聞きたかっただけさ」
「......?」
肩をすくませて言う私に、チズはキョトンとなった。
彼女からすれば、全く予期しない内容だったのだろう。
そうな? そうなるのかも知れない。
けどさ? コッチとしてはアンタらの過去が気になったから、敢えてイリと戦ったりしてるんだよな?
「私は、そこの賞金稼ぎ以上に慈悲深く......そして、愚鈍だ。場合によってはお前達を助けてやる事もやぶさかではない」
「何が目的なの?」
今までとは比較にならないまでの警戒心を顔一面に出して、私に尋ねて来るチズ。
うむ、今のはちょっと不味かったかな。
妙に回りくどいし。
まぁ、ここは反省点として。
「さっきから何回か言ってるかも知れないが......私が気になったのは一つだけ。お前達の過去だ」
私は率直に答えた。




