激戦! リダさん、どうしてかイリさんと戦う【6】
ボンッ!
その時、イリが埋っていたろう辺りから、何かが轟音を立てて飛び出して来るのが分かった。
.........。
不死身なのか? あいつは!
意味不明な強さだぞ! 真剣な話っ!
唖然となる私を前に、イリは地面から飛び出て着地して見せる。
こ、こうなったら......。
「良いだろう。総力戦だっ!」
私は再び気迫を込める。
......とは言え、連続しての攻撃にこっちのスタミナもかなり消費している。
もう、そこまで長くは戦えない......。
「......だめだ、こりゃ勝てねぇ」
こうなったら、玉砕覚悟で突っ込む......うん?
そこで、イリがへたり込む形で尻餅を付いた。
てか、自分で座った。
「......ったく。本気で俺を力で負かすかよ」
あぐらをかいたイリは、苦笑して私を見据えながら答えた。
その瞳は......あ。
そうか。
「......素直じゃないな」
「俺は全てにおいて素直だ。ついでに言えば、お前が偽善に走った行為だって不本意だ」
イリはぶっきらぼうに吐き捨てる。
そうだな......そこは、お前の言う通りだ。
実際の所、これで良いとするのは虫が良すぎるのだろう。
今がどんなに真面目でも。
今がどこまでも正義感のある人間であっても。
今が聖人にも匹敵するまでの、清らかな心を得ていたとしても。
それでも、過去の罪はちゃんと清算しないと行けない。
幾人もの人間を殺した暗殺者。
その罪は重く......そして、それ以上に悲しんだ多くの人間達がいる以上、いつかはその断罪を受ける時が必要である事もまた道理なんだ。
しかし、思う。
今の二人は、まだその時ではない......と。
そして、イリも。
私の言ってる意味も、ほんの少し位は理解してくれている筈なんだ。
「ズバリ言う。お前の糞甘い理想論になんざ、本当は付き合うつもりもない」
そこまで言うと、イリは立ち上がる。
程なくして、かなり心配していた顔のキイロがやって来た。
これまで、近寄る事すら不可能に近かった彼女は、戦闘が完全に終わった事を確かめた上でイリの近くまで飛んで来た。
文字通り飛んでいた。
まぁ、ドラゴン・ハーフだしな。
翼がちゃんとあるのか。
普段はどうやってるのか知らないが、完全に消えている。
多分、ただしまっているだけなんだろうが......どうやってるのかは、ドラゴンの神秘だな。
そこは置いといて。
「リダさん。貴方のやってる事は確かに甘いとは思う......けど、私はイリ程の反発はしません」
キイロは穏やかに私へと言う。
戦闘が終了し、お互いに戦意がない事が分かっていたのか? キイロは別段、私を恐れる事なく穏和な表情を見せていた。
イリと少し前まで敵対状態になっていても、私がそこまで好戦的な人物ではないと思っているのだろう。
ご名答だ。
キイロはむしろ友好的な笑みまで見せて私に答えて来た。
「かつての私も、強制的にやりたくもない残虐な行為を行って来た事があります......だから分かっちゃうんです」
......へぇ。
ジャンとチズの二人が、かつてのキイロと似ていたのか。
もし、そうであるのなら......キイロもかなり辛い想いをして来たに違いない。
それでも尚、その笑顔を作る事が出来る。
つまるに、その笑顔が全ての答えを出していると見ても良い。
「今の私はとってもとっても幸せです。答えは......」
ここまで言うと、キイロはイリを見てキュッを優しく両手で引き寄せて見せた。
これにイリは思い切り焦るのだが、私に喰らったダメージがあってか、身体を上手に動かす事が出来ず、キイロの包容に抵抗する事が出来ないでいた。
イリを優しく抱き締めたキイロは、慈愛と仁愛をふんだんに込めた満面の笑みを優美に作りながら、愛情が溢れ出る言霊を私達に紡いだ。
「最愛のイリが、いつも私の傍にいてくれますから」
塵芥のためらいや、気恥ずかしさすらなく。
むしろ誇らしく。
豊潤な愛情を惜し気もなく注いで。
誰よりも美しく......キイロは淡麗な姿で、自分の幸福を語っていた。
なんてか......凄いな。
私的に言うのなら、ここまで真剣で直球の感情を投げるキイロが凄く羨ましい。
直球の感情を注ぐ勇気も必要だが......それを受け止める方だって、相応の覚悟が必要だ。
キイロの強すぎる愛情は、時にイリへと強い重圧としてのし掛かる事もあるだろう。
だが、イリはキイロが注いで来る一途な愛情を、全て受け止めているのだ。
だから、キイロはここまで堂々と言える。
私の気持ちをちゃんと受け止めてくれる、貴方が世界で一番大好きです!
......と。
そして、この言葉をしっかりと言えるからこそ、彼女は最高の幸福を手に入れているのだ。




