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夢と、現実の狭間【26】

「貴女の様な、欲の少ない清廉な心の持ち主であるのであれば、多少の富を持ったとしても、その富に溺れる事なく生きて行く事が出来るでしょう……分かりました」


 ……何が分かったと言うのだろう?

 再びユグドラシルはうんうんと何度か頷く仕草をしてみせた。


 いや……まぁ、良いんだけどさ。


「貴女には、六億の借金があります。この借金を返し……尚、余りあるだけの富を貴女に授けましょう」


 ……へ?


 私はポカンとなってしまう。

 それはそれでかなり嬉しい申し出ではあった。


 更に言うのであれば、その言葉が額面通りだったりすると……だ?


「それは有り難い! これで、このダンジョンからおさらばする事が出来る!」


 私はもろてを叩いて喜んだ……が、


「それはなりません」


 直後……ユグドラシルは、極めて厳しい顔になって私に答えた。


「もし、私の与えた報酬により、目的を達成したとみなしてトウキへと戻ってしまえば……元来、回避する事が出来たかも知れない、大きな災厄から逃れる事が出来なくなってしまうかも知れません」


 そして、ものすごぉぉぉぉく突飛でもない台詞をのたもーた。

 いやいや、ユグドラシルさんよ……あんたは女神と言うか、世界を作った創造主みたいな存在だから、私も知らない事を当然の様に知っているのかも知れないが……。


「あの……それ、なに?」


 何も知らない私からするのであれば、まさに寝耳に水も良い様な話なんだけど……?


 突如としてユグドラシルの口から発された、実に意味深な言葉を耳にして……私は眉を潜めた。


「そうですね……貴女はこの世界に大きな災厄が迫っていると言う事実を知らないまま、このダンジョンへとやって来ていたのでしたね」


 ユグドラシルは、ハッとした顔になって言う。

 そこから、またも頷く感じの素振りをしてから、再び私へと口を開いた。


「この世界には、一定の周期でやって来る巨大な台風の様な物が存在するのです」


 ……は? 台風?


「台風って、あれだろう? 亜熱帯性低気圧だよな……?」


 超巨大な暴風雨の一種ではあるんだが……まぁ、ここに関しては説明するまでもない事だろう。


 これを読んでいる方なら、実際に台風が何であるのか……なんて、わざわざ説明されるまでもなく分かりきっている事でもあるからな。


「そうですね……貴女達が言う台風は、まさにそうなのですが……巨大な台風『の様な物』なので、実際には台風ではありません。見た感じは台風の様な巨大彗星と言うのが、より正しい表現になるでしょうか?」


 なるほど、台風みたいな巨大彗星なのか。


 ……ん? 待て?


「巨大彗星……だとっ!?」


 私は愕然となってしまった。


 このユグドラシルさんは、私に幾つ驚かせるだけのネタを投じて来るのだろう?


 さっきから、驚きの連続で……もう、気が狂いそうなんだが……?


 そんな、私の精神が白旗を上げそうな心理状況にある中……彼女は言った。


「大昔……遥か太古の時代、私のオリジナルはこの星を大層気に入りました。そこで当時、暇潰しで世界を創成しようとしていた宇宙意思が趣味で作ったとされるこの星に、新しい生命の息吹を与えたいと言い出したのです」


 ……ああ、そう言えばそんな感じだったな。


 今にして思っても、ちょっとした脱力感すら抱いてしまいたくなってしまう話なのだが、この世界の創成は宇宙の彼方で長い年月を掛けて生まれた超自然的な意思の趣味によって作られた物だ。


 私達は、単なる趣味の一環によって生まれ……そして、生活している……いるんだけど、これが真実だったにせよ、もっとオブラートと言う物に包んで話をしてほしいと思うのは、私だけであろうか?


 まぁ、ここに関しては以前の話でもやっているから、ここでは割愛させて頂こう。

 取り敢えず、次に行こうか。


「新しい生命を受けたこの世界は、より美しく……そして自然に満ち溢れた神秘の世界へと生まれ変わりました」


 淡々と説明する形で答えたユグドラシル。

 ここは、確かにその通りだと言わざる得ないな。


 この世界に魔法の力……魔素が当たり前の様に存在しているのは、世界樹がこの世界に根を生やし、長い年月を掛けて世界に魔素を充満させ……かつ、自給自足で魔素を世界中の隅々まで行き渡らせる事が出来たからこそ実現している。


 他の世界だと、魔素がここまで存在していないから、ここまで自由に魔法を発動させる事は出来ない。

 逆に言うと、この世界に存在している空気を吸い……食べ、生きて行くだけで魔素を得る事が出来る、この世界は魔法を使う者にとって楽園の様な世界でもあるな。

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