夢と、現実の狭間【24】
この反作用が曲者で……強い意思を持てば持つだけ強烈になり、元来ならターニングポイントとして別の分岐が用意されていたとしても、反作用によって分岐点が消滅してしまう危険性があったんだとか。
そこで、私に未来を変えると言う意思を『持たせない為』に、敢えて何も言わなかったそうだ。
「本来であるのなら、事情を説明した上で試練を行った方が、試練を受ける当人も納得出来るでしょうし、私としてもそちらの方が気持ちの上で楽ではありました……が、しかし……それを、時が許してはくれなかったのです」
なるほど……。
それをやってしまうと、試練の難易度がより高くなってしまい……場合によって詰んでしまうのか。
ユグドラシルなりの事情があったと言う事だけは分かった。
まぁ、これはこれで良いだろう。
理にかなっているかどうかは別として、ちゃんと理由があってそうしていたと理解する事は出来る。
問題は次だ。
「私の仲間はどうなっているんだ? 見た所……私しかここには居ないみたいなんだけど……」
答えた私は眉間に皺を寄せて尋ねた。
この言葉通り、周囲にはユグドラシルと私の二人しか居ない。
別に居なくても困らないし、構わないユニクスを始めとして……ローグルさんやコニアさん、ミドリさんの姿もない。
そして、そもそもここにいた面々の顔触れも、全く見当たらない。
みかんやいよさんさん、ういういさん辺りは自力でどうにかするだろうから良しとしても……私にとってかけがえのない、唯一無二の愛娘……アリンの姿も全く見当たらないのだ。
私にとって、ここが一番の不本意な部分だった。
「あなたと一緒にあの世界へと向かった方々は、既に次の層へと向かいました」
私の問いに答える形で口を動かしたユグドラシルは、言うなり右手を虚空に向けると、
ズォォォッッ……
右手を向けた虚空に歪みの様な物が発生し……階段の様な物が生まれる。
「この先にある階段を降りて行けば、数分もせずに合流する事が出来るでしょう。次の階層は金の階層と呼ばれる場所。己の欲望を抑える事が鍵となる場所です。どうかお気を付けて……」
「えぇと……はい、ありがとう」
多分、嘘はないだろうユグドラシルの言葉に、私は軽くお礼なんぞを口にする。
だけど、私はまだ彼女に聞かなければならない事があった。
「この階層に来る前、私の娘が居た筈なんだが……」
「アリンちゃんですね? はい、今でも元気に夢の中ですよ?」
……ああ、そうなるのな?
まだ、ここの階層の試練をクリア出来ていない……って感じの事を、遠回しに言ってるんじゃないかな? と、私なりに予測した。
すると、私の予測が正しいと言う事を裏付けるかの様に、
「アリンちゃんは、同時期にやって来た別のパーティーの方と一緒に試練を行っている最中です。私の見立てではありますが……アリンちゃんは、この試練を通じて様々な事を学び、人間として一回り成長している最中に見えますね? 人生の先生は何も親だけではない……親はなくとも子は育つとは、良く言った物ですね?」
「それは、本当の事か?」
「本当ですよ?……ほら」
少しばかり怪訝な顔になって言う私に、ユグドラシルは右手を別の虚空に向ける。
その瞬間、大きな画面の様な映像が虚空の中に浮かび上がった。
そこには、元気に笑いながらもたくましく生きるアリンの姿が。
その隣に居るのは……いよかんさんだろうか?
うーむぅ。
他にも、パーティーの中に見た事のない顔の男女が二人いるみたいだけど……これが、あれか? このダンジョンを攻略している別の冒険者って事になるのかな?
私達の他に、ライバルの冒険者パーティーが一杯いた事は最初から知っていた。
このダンジョンが解放され、まるでマラソンでもしていたかの様に、数多くの冒険者達がこぞってダンジョンの中へと入って行く姿は見ていたからな?
そう考えると、他のパーティーがこの第四階層まで到達していてもおかしな話ではないんだけど……それでも少し思う。
良く、この階層まで来る事が出来たな……と。
ポイントは時間だろうか?
色々と最短で進んだとしても、かなりのハイペースでこの第四階層まで来ているな。
何より、この迷宮は年単位の攻略時間を要するのが普通で……今の様に、攻略二日目にして早くも折り返し地点でもあるこの階層まで辿り着いている方が不自然な話だったのだ。
それだけに、画面の中にいた男女二人の実力は超一流クラスの実力を保持しているんじゃないのかなぁ……と期待したい。
……もしかしたらイリのパーティーにいた事でズンズン進んでしまったローグルさんやコニアさん、ミドリさんの様な境遇にある人物かも知れないけど、そこは深く考えない様にして置いた。




