夢と、現実の狭間【22】
しかしながら、実は過去から未来への間には分岐点の様な物が存在し、この分岐点に限って言うのであれば、ちゃんと別の未来へと変化する事があるらしいのだ。
それが、族長の言う時間のターニングポイントである。
さっきの例で言うのであれば、小石を退ける事が一つの分岐点であるのなら、そのまま馬車に轢かれないと言う別の未来へと『分岐』する。
ポイントは、そこが時間のターニングポイントであり、過去から複数の未来へと繋がる分岐点であるかどうかが重要らしい。
果たして、私はそのターニングポイントと言える時間軸へと強制ワープさせられた……と、こうなる模様だ。
私の行動如何で未来が大きく転換され、全く異なる未来への分岐点へと変更する事が可能だった訳だな?
同時にそれが、今回の試練にもなっていた。
合否の判定に関して言うのであれば、私も詳しい事は分からないと言うのが正直な所ではあるのだが……悲惨な戦争の被害を可能な限り縮小する事が出来たのであれば合格だったとの事だ。
その上で、族長は答えた。
あなたは合格だ……と。
未だ夢現な部分があるが、私達がワープした世界で行った行動は、この現在に置いても大きく反映しており、今ある平和な世に繋がる大きな要因にすらなっているんだと言う。
現状の世界情勢は、まさに平和その物。
人間同士の大きな戦争と言う物は、百年前に起こった世界戦争が最後だった。
族長の言う事を全て鵜呑みにして良いのかは、やっぱり悩む所ではあるんだけど……話によれば、第二次世界大戦が勃発する未来もあり……一次大戦よりも凄惨かつ悲壮的な争いへと発展して行くんだそうだ。
この、第二次世界大戦と言う未来を完全に消滅させる切っ掛け……過去と複数の未来を繋ぐ分岐点に立っていた私は、二次大戦への未来を断ち切った。
…………らしい。
…………。
まぁ……その、さ?
こんな事を言われても実感なんて湧かない訳だ。
少なくとも、私の知る歴史の中では二次大戦なんて勃発してないし。
この世界で起こった直近の戦争は、やっぱり百年前の世界大戦だけだったんだ。
そう言う過去を歴史書の中で学んでいた私としては……実は、自分の行動次第では自分の知る過去とは大きく事なり、自分の知っている最悪の戦争よりも酷い世界大戦が、もう一回勃発していたかも知れないと言われても、全く実感が湧かなかった。
しかし、族長は答えたのだ。
私が、二つ目の世界大戦を……そこにあったであろう大きな悲劇を全て回避する事が出来たんだ、と。
余談だが、一回目の世界大戦を回避する分岐点は、族長も見つける事が出来なかったらしい。
かなり色々と探したらしいのだが、どう頑張っても時の自浄作用に捕まり……最終的には世界大戦へと進んでしまう未来しか、見つける事が出来なかったんだそうだ。
それなら、せめて二次大戦を回避する分岐点はないか?
そして見付け出した結果、私がその時代へと向かう事になった。
……かくして。
「リダさん。あなたには四層目……この階層を踏破した権利を与えたいと思います」
そうとにこやかに答えた族長は……全てを答えたとほぼ同時に、その姿を変えた。
これまで、大きな山猫の様な体躯をしていた獣人の姿から、緑色の長い髪を腰の辺りまで伸ばした、麗しい女神の様な女性へと変化したのだ。
……てか、普通に女神なんじゃないのだろうか?
普通、ダンジョンの中にいるのはモンスターの類いであると、相場では決まっていると言うのに……まさか、女神がエリアボスをしているとか言うオチなのか?
もしそうだとするのであれば、このダンジョン……本気で何でもアリだな!
獣人から女神風の美しい女性へと変化を遂げた元・族長の姿に思わず唖然となってしまう私がいる中、彼女はうっすらと笑みを作ってから口を開いた。
「この姿では初めて御会いしますね?……なら、改めて自己紹介をさせて頂きましょうか?」
そうと答えた彼女は、更に笑みを強め……慈愛に満ちた微笑みを私に向けながら、再び答えた。
「私の名前はユグドラシル。世界樹とも呼ばれてますね?」
……本物の女神だったし。
私の口があんぐりと開いてしまった。
こ……この迷宮……どうなってるんだ?
い、いや……百年周期の大迷宮だって事は知ってたけど……よりによって世界樹だとっ!?
この世界に置けるユグドラシルは、超宇宙的な特殊な存在として有名だ。
今いる世界が誕生するよりも遥か昔……宇宙の彼方で誕生した樹木があった。
広く……広大な宇宙空間を旅した樹木は、度重なる偶然から現在の惑星に辿り着き……地に根を生やした。
そして、様々な生命を産み出し……世界が生まれた。
今、この世界に生息する全ての動物は、そのルーツを辿って行くと、一部の例外を除けば宇宙から飛来した巨大な宇宙の樹木……ユグドラシルに辿り着く。
この世界に生息する、ありとあらゆる生命の先祖であり……今ある世界を、生命力で満ち溢れた肥沃の地へと変えた世界の根本。
よって、世界樹と呼ばれる様になった。




