夢と、現実の狭間【20】
「……良く頑張りました」
……あれ?
反論が怖いから逃げる様に立ち去り、歩き始めた所で族長が優しい微笑みで私へと言う。
何で族長がこんな所にいるんだ?
もしかして、西軍の連中がこぞって逃げ出したから、テントの外から出て来たんだろうか?
ふと、こんな事を考えていた辺りで気付いた。
周囲の光景が変わっていた事に。
まるで、瞬間移動でもしたかの様に周囲が変わっていた。
これまであった、駐屯地の様な場所ではなく、何処かのダンジョンの広間みたいな場所に……っ!?
ま、まさか……ここは……?
「元に戻った……?」
私は周囲を見渡しながら、誰に言う訳でもなく答える。
周囲にある光景を見た事があった訳でもないし、初めて来た場所だと言う感覚ではあったのだが、ここがダンジョンの中であった事を考慮するのであれば、私が元来居たであろう百年周期のダンジョン内の何処かである事が予測された。
つまりそれは、元来の世界……そして、元来の時代へと戻って来た事を意味する。
「そうですね。元からあなたの肉体はここに居ましたが、精神が戻って来た。そう言う意味では『戻って来た』と言う事になるのでしょうね」
……なぬ?
元から、肉体はいた……だと?
「ここまで言えば分かったかも知れませんが……あなたが今まで経験して来た事は、全て夢……私が作り出した夢の世界でもあります」
「……はぁ?」
なんだそりゃっ!?
「但し、普通の夢ではありません。肉体から精神を切り離して時空を越え……実際に起こった現実の世界で、あなたは行動をしておりました。そう言った意味では夢の中にある現実の世界で行動をしていた……となります」
?????
突飛でもない状況に、私の頭は混乱状態だ。
一体、何が起こっていると言うんだ?
「まだ分かりませんか? 貴方は私の力によって精神のみ別の場所へとワープし、そこで精神を元に仮の肉体を再構築された状態で行動していたのです」
「……そ、そんな事が出来るのか?」
しれっと、簡単に言っているけど、やっている事はメチャメチャだぞ?
「それが出来なかったのなら、今の貴方にある記憶は何だったのでしょう? 全てが全て……本当に幻だったのですか? 夢だったのですか?」
…………。
あれが、夢?
いや、でも、確かにあれが夢であったとするのなら、全てが全て辻褄の合う内容だ。
何処でどんな事があったとしても、全てが夢であったとしたら……かなり乱暴な解釈になってしまうが、夢だった……で終わってしまう話だ。
しかし、そんな事が実際にあるのだろうか?
仮にそれが真実だったとして……私は、どうしてそんな夢を見たと言うのだろう?
いや、そもそも夢にそこまでの意味合いを持たせる事は出来ないし……うぅむぅ。
しかし、夢と言うのは、自分の記憶を媒体に発生させる現象だ。
私には、あんな過去の記憶なんてあろう筈がない。
自分の中にある筈もない記憶なんぞ、見れる訳がないのだ。
結局の所……夢オチとか言う、安易な所にするには無理がある話だった。
「少しは理解して頂けましたか? あれは夢であり……夢ではありません。あれは私の追憶から導き出された過去であり……今『実際の過去として成立した』現実の世界でもあるのです」
…………?
つらつらと説明をして行く族長に、私は全く話がついて行けず、ただただ困惑する事しか出来なかった。
夢であり、現実である。
これだけでも私の中では混乱の対象になっていると言うのに……この上、過去が成立したとか、もはや意味不明な事を追加で言われているのだから、これで混乱するなと言う方が間違っているんじゃないだろうか?
「……なるほど。私は少しばかり話をはしょり過ぎたのかも知れませんね……分かりました。最初から事細かに説明して行きましょう」
困惑に混乱を重ねた表情をみせていた私に、そこで族長は少し納得加減の顔になってから、再び説明して行った。
この話は、少し話が長くなってしまう模様なので、ここでは族長の説明をかいつまんで、私が述べて行く事にしよう。
族長の話を大まかに、ポイントだけをかいつまんで話とこんな感じだった。
私が見た夢は、今いる階層……木のエリアで行われる試練だったそうだ。
簡素に言うのなら、私はワープ・トラップに半分だけ引っ掛かった状態だったと言う事になる。
半分だけ……と、実に曖昧な表現をしていたのは他でもない。
私は実際にワープはしていた。
但し、私の身体その物は最初から本来の世界のダンジョン内にちゃんと存在していたのだ。
それでは、何がワープしたのか?
族長の説明にも少しあったかも知れないが、私がワープしたのは私の精神だった。




