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夢と、現実の狭間【16】

 ここが連中の駐屯地だと言うのに、そこから逃げてどうするんだろうか? とか言う、素朴な疑問はさて起き……私としては都合の良い光景でもある。


 なるべく敵の兵士を殺す事なく西へと送り返し、今ここで起こった出来事を口コミで広げて行って欲しいと言う目的がある関係上……適度に相手を倒すより、さっさと逃げてくれた方が楽だったからだ。


 ……けど、敗走兵としてこの島に留まってしまうのだけは何とかしないと行けないなぁ……。


 そう考えると、全員逃がさずに捕らえて、その上で敵が乗って来たのだろう船に押し詰めてやる所までやれば良かったのかも知れない。


 ……いや、それは考え過ぎかな?


 南西大陸の人間と、里の族長は良い関係にあるみたいだし。

 いざと言う時は、敗残兵なんぞ南西大陸の兵が蹴散らしてくれるんじゃないかなぁ……と予測する。


 まぁ、飽くまでも予測に過ぎないレベルの考えなんだが。


 物凄い勢いで逃げて行く兵士達を軽く見据え、私は自分の勝利を確信して行く。

 

 もう少し波乱があるかと思ったのだが、どうやらそれもない……。


「貴様ぁっ! 栄光ある西大陸連合軍を舐めるんじゃない!」


 ……かと思ったら、そうでもなかったよ。


 これまで号令を掛けていたっぽい上官の様なヤツが、私の前にやって来ると、まるで重罪人でも見るかの様な視線を私に向けて剣を引き抜いて来た。


 もう既に分かっているかも知れないけど……お前らに大義なんぞないからな?

 むしろ、恥ずかしい事をしている物だと考えるべきだろう?

 少なからず、人道的な視点で物を言うのであれば、この島へと一方的に侵略して来たお前らのやってる事は、完全なる悪党の所業としか他に形容する事が出来ないと思うんだがなぁ……?


「アンタにそんな顔をされる筋合いはないと思うんだが、どうだろう?」


「黙れ! 誉れ高き西の連合軍の栄光を鑑みれば、この程度の行為などあって当然の道理なのだ!」


 それはどう言う道理なんですかねぇ……?


 どうやら、コイツには言葉が通用しない様だ。

 たまにいるんだよねぇ……こう言う、信者みたいなヤツが。


 如何にも金の掛かっていそうな、上等な剣を握りしめた上官っぽい男は、


「くたばれ、化け物ぉぉぉっっ!?」


 ものすごぉぉぉぉく失礼な台詞を、鬼気迫る形相で叫んでいた。


 超失礼なヤツだな!

 こんな、可愛い化け物がいてたまるか!


 猪突猛進と言う形容が、まさしく当てはまるだろう勢いで突っ込んで来た上官らしき男の剣は……まぁ、御多分に漏れる事なく私の眼前でピタリと止まった。


「……何なんだよ……これは……っ!?」


 不可視の壁……ともすれば、そんな風に見えたのかも知れない上官は、半泣きの状態になりながらも、


「うぉぉぉっっっ!」


 金が掛かっていそうな剣を何回も振り抜いていた。


 その根性だけは認めてやっても良い。

 だけど……世の中、根気だけではどうする事の出来ない事だって一杯あるんだ。


 まさに、その典型とも言える光景が、私の前で展開されて行く。


「はぁはぁ……ど、どうしてだ? どうして、お前に当たらない……っ!」


 何度剣を振り抜き……そして、私目掛けて斬り付けても、私の前で剣が止まり、私の身体には全く到達しない状態を何回も見た所で、上官らしき男は肩で息を吸いながらも叫んでみせる。


 自分の目で見える物だけが全てではないと言う事だ。


 魔法の世界は、根本的にミクロの世界だからな?

 お前の様に、ただ剣を振るえば相手の身体に当たる……そんな、シンプルな造りではないと言う事だ。


「いい加減、負けを認めたらどうだ? お前らの部下と思われる連中は、もう全力で逃げてるんだぞ? 普通に回りを見てみろ? お前の仲間はいると思っているのか?」


「我が軍の志を忘れた腑抜け供に用はない! 私一人だけでも、コラムズ准将が願い続けた、高尚なる目的を果たしてみせる!」


 あいつにそんな高尚な目的なんてあったのかねぇ……?


 私には、コニアさんにロープで縛られて、妙に興奮した状態で『もっと強く縛れ!』とか言う、残念な人にしか見えなかったんだが……?


 ふと、こんな事を考えてしまう私がいたが……それでも、今いる上官っぽい男からすれば、立派な将兵だったんだろう。


 そう思うと、少し可哀想な気がするから……落ちゲー准将の性癖についてだけは黙って置いてやろうか。


「高尚かどうかは知らないけど……お前も軍人であるのなら、往生際と言う物を考えたらどうだ? 今のお前は、どう頑張っても無理だと分かっていても尚、無様に足掻いているだけにしか見えないぞ?」


「黙れ! 貴様に何が分かるっ!」


 ……いや、確かに何も分かりはしないけどさぁ……。


 露骨な敵意を私に見せる形で叫んで来た上官っぽい男に、私は胸中でのみ嘆息していた。

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