夢と、現実の狭間【15】
ガラガラガラッッッ!
ガシャァァァンッッッ!
強烈な音を立てて瓦解して行く巨大な魔導人形を見て、周囲にいた兵士達の表情が蒼白になる。
まぁ、連中からしたら驚愕に値する内容なにかも知れない。
抽象的に言うのなら、突っ込んで来た戦車が武器も持たない謎の美少女によってアッサリ爆破されてしまった様な物だ。
当然、驚かない方が無理だろう。
しかし、それでも数の上で言うのならまだまだ西軍の部隊の方が圧倒的だ。
そして、策が尽きた訳でもなかったのだろう。
「ひるむな! 魔法隊と弓隊! 撃てぇぇっっっ!」
上官と思われる兵士の号令と同時、遠方にいた弓兵が集団で私の近くまでやって来ては、一斉にその矢を私に向けて来た。
その後方には、魔導師と思われる部隊が二十人ばかり、私に向かって魔法を発動させようとしている。
文字通り雨の様に矢が飛んで来たのは、そこから間もなくの事だった。
飛んで来た矢は、オーソドックスな矢だな?
特段、何か魔力的な物がこめられている訳でもなく……うーん。
強いて言うのなら、かなりの人数が一斉に私の方に向けて矢を射抜こうと飛ばして来たのだが、その射撃はかなり精密だったと言う所だけは、私なりに誉めてやっても良いんじゃないかなぁ?……多分。
しかし、誉められる点を強引に引き出せばその程度の物だ。
威力は歩兵達の槍と大差なく……下手をしたらそれ以下の殺傷能力しかない。
この程度の攻撃なら、まだ百年迷宮にいた雑魚モンスターの方がまだマシな威力を持っていたな。
例によって、私の眼前へと降り注がれる様に飛んで来た複数の矢は、私に当たる直前の所でピタリと止まる。
これまた静止画像でも見ているかの様に、ピタッッ! っと止まり、力をうしなった矢はそのまま地面へとポトリと落ちた。
「……ば、化け物めぇっ!」
全ての矢が無効化され、そのまま地面へと落ちた状況を見た弓兵が、忌々しさと恐怖の両方を併せ持った表情をアリアリと浮かべながらも吐き捨て、そのまま素早く後方へと走り去った。
化け物とはご挨拶な話だ。
能力的に私の方が、お前達よりも高かった……ただ、それだけの話だと言うのに。
何より、こんなに可愛い顔立ちをしている私を前にして言う台詞なんだろうか?
これでも(今の外見は)十六才なんだぞ?
十分、可愛い女の子してるだろ!
私的に言うのであれば、極めて不本意な台詞を声高に叫ばれて、気分が物凄く悪くて仕方がない心境にあったのだが、文句を言うだけの暇はなかった。
逃げ去る様に後方へと引いた弓兵の後、更に後方にいた魔導師達の攻撃が一斉に私の元へとやって来たからだ。
燃え盛る火炎の球……うむ、これは火炎球魔法だろうか?
直径1メートル前後の大きな火炎球が複数飛んで来るのが分かった。
最初はこれだけなのかなぁ……と思っていたのだが、
断罪の雷!
上位の雷魔法も発動して来た。
カッッ……
ドォォォォォォォォンッッッ!
私の頭上に、とてつもない勢いで雷が落ちて来る。
落雷による強烈な稲光と同時に強烈な衝撃音が周囲に撒き散らされる様な荒々しさで轟いた。
……まぁ、派手だな。
威力もあると言えばあるんだろう。
だが、会長様相手に通用するとでも思ったのか?
そこからワンテンポ遅れて火炎の球がやって来るが……この火炎の球を含めた全ての攻撃魔法は、私の周囲にあった透明なバリアによって全てを無効化されるだけに終わっていた。
周囲にいる兵士達からすれば、煤一つ付着していない私の姿は異様だったかも知れないな。
だからと言うのも変な話ではあるんだが、
「ダメだぁっ! こ、こんなの……人間じゃねぇぇっっ!」
狂乱する形で叫ぶ兵士なんぞが現れる。
そこから先は早かった。
恐怖が伝播する形で周囲の兵士達へと蔓延し……一気にバタバタと逃げ始めて行く。
軍隊とか言う割りには……規律がないと言うか、なんと言うか。
もう少し気骨のある態度を見せてくれると思っていたんだけど……どうやら、そうでもなかった模様だ。
「まるで烏合の衆だな。蜘蛛の子を散らす勢いで逃げるか」
私は誰に言う訳でもなく呟いた。
まぁ、これはこれで余計な手間が省けて結構な事ではあるんだがな?
一気に逃げて行く兵士達を見て『どうでも良いけど、お前ら何処に逃げるつもりなんだ?』とか言う、珍妙な謎を胸中で抱えながらも、逃走して行く兵士達を傍観する形で眺めていた。




