夢と、現実の狭間【14】
四方八方……そりゃもう、うんざりするまでにアチコチから飛んで来た槍は、私を中心にした状態でピタリと止まった。
まるで静止画像を見ているかの様に……ピタッッ! っと。
……全く。
ここで爆破魔法を発動させる事が出来たのなら、この瞬間に周囲に居る連中は爆死出来ると言うのに。
ゴォォッッ!
次の瞬間、一人の兵士が吹き飛んだ。
恐らく、周囲の連中には見えなかったとは思うんだが、一人の兵士に向かって蹴りを叩き込んでいたのだ。
蹴られた兵士は勢い良く吹き飛び、周囲にいた何人かを巻き込む形で倒れて行った。
「……な……なんだ、今のは……っ!」
私の動きに目が付いて行けず、何が起こったのか分からないと言うばかりの顔をしていた兵士は、その次の瞬間に大きく吹き飛んでいた。
やっぱりさっきの兵士と同じ要領で蹴りを入れて、綺麗に吹き飛んだのだ。
先程と同様、周囲の兵士を巻き込む形で吹き飛んで行く兵士。
……うむ。
これだと、他の兵士もついでに倒せて便利だな。
完全に倒せる訳ではなく、卒倒せずに立ち上がって来る兵士も何人かはいたが、それでも幾分かのダメージにはなっているだろう。
そう考えるのなら、このやり方の方が良いか。
……思った私は怒濤の勢いで槍を持って攻撃して来る兵士を敢えて吹き飛ばす感じの攻撃を展開して行く。
こんな事を言うと弱いものイジメになってしまうかも知れないけど……まぁ、一方的だったね。
連中の槍は、私の周囲に生まれていた透明なバリアによって完全にシャットアウトする事が出来た為、そもそもガードを取る必要もない。
他方、私の方は一方的に攻撃する事が可能なので、適当に近くの兵士を吹き飛ばしては回りにいる兵士ごとバタバタと倒して行けば良いだけ。
これが無双系のゲームであったのなら、もはや完全無欠のチートだな。
……あるいは、超ヌルイ難易度設定にしたかのどちらかだ。
戦況はまさに一方的で、そもそも攻防にすらなっていないと言う、実にお粗末で大味な結果になってはいるんだが……いかんせん数が多い……多過ぎる!
他方、私のスタミナが持つかどうか? と言う事に関して言うのであれば……ズバリ言って、余裕だ。
補助スキルはおろか補助魔法すら使ってないぞ……ここまで能力を温存していると言うのに、それでも一方的な攻撃が出来るのであれば、この十倍の数がいたとしても余裕だろう。
抽象的に別の物で言うのなら、マラソンランナーが常に歩いている状態だ。
長距離を走破する事が出来るだけのスタミナがあるランナーが、ゆっくりと徒歩で歩いている状態であるのなら、スタミナの消費量なんてゼロに限りなく近い状態と言える。
何なら、半日だって相手していられるレベルだろう。
ハッキリ言って、欠伸が出るレベルだぞ。
「……いい加減、レベルと言う物を知れよ。お前らが相手じゃ、一万人いても話にならん」
ドガァァァァッッ!
吹き飛ばしながら言う。
またもや数人の兵士を巻き添えにして吹き飛んで行くが……やっぱり連中の数が減った様には見えなかった。
ぐむぅ。
別に疲れる様な事もないし、私自身もダメージを受ける様な事もないんだが……こうぅ……なんとも単調な戦いになってて、つまらないな。
戦闘に面白いもつまらないもあった物ではないかも知れないけど……やっぱり、こうも大味で単調過ぎると飽きてしまう。
少しで良いから、ちょっとの変化は無い物かね……?
こんな事を考えていた時だった。
「全員、退避だ! 離れろっ!」
後方から上官と思われる声が高らかに放たれていた。
……ん? 何だ?
もしかして、もう逃げるのか?
確かに一方的だったし、この調子で戦ってもアッサリ全滅するのは、誰の目から見ても明らかだ。
だけど、戦闘か開始されてから、まだ五分と経ってないぞ?
そんなアッサリ逃げるとか……どんだけ腰抜けなんだよ? お前ら……?
そんな事を胸中でのみ呟いていた時だ。
ボコォ……ボコォォォォッッ!
地中から、物凄く大きな魔導人形が生えて来た。
それは、感じからしてまさに『生えて来た』と言う感じだ。
ふむ、なるほど。
コイツを召喚するのに、兵士が巻き込まれない様にする為に、周囲を退散させたのか。
地面から生える様に出現した魔導人形は、全身が鋼鉄の様な金属で出来た魔導人形だった。
果たして。
ドォォォォォォォォンッッッ!
魔導人形は爆発した。
もう、これでもかと言うばかりに盛大な爆発を起こしていた。
この一撃によって、魔導人形はアッサリと瓦解して行く。
うむ、とんだ見かけ倒しだったな!




