夢と、現実の狭間【9】
良く分からないが、何か考えがあってローグルさんの方へと向かって行ったのだろう族長は、ローグルさんの近くに立つと、テントを中心に終結していた駐屯地の兵士達へと声を張り上げてみせた。
「諸君! ローグル殿の述べた通り、諸君らのボスでもあるコラムズ准将は我が手にある! 無駄な抵抗をする者は、諸君らの上官の命を粗末に扱った物と考えよ!」
そして、ローグルさんと似た様な脅迫を、さも当然の様に宣言してみせる。
……いや、だから……それだと、私達が悪役みたいじゃないのか?
「しかし、諸君達にもチャンスをやろう! 今、テントの中にいる私達の同志……中央大陸の怪童と呼ばれた女、リダ・ドーンテンと勝負をし、勝てばこちらは無条件での降伏を約束しようじゃないか!」
……って、何言ってんのっ!? あの山猫っ!
しかも、自分じゃなくて私を名指しで言って来たぞっ!?
もう、ワケわかんないしっ!?
「……あの族長は本当に何者なのでしょうか? リダ様の詳細を如実に悟っているかの様な言動……何より中央大陸の怪童と言う、一部のコアなリダファンである私程度しか知らない様な物まで知っているとは」
他方、私の近くにいたユニクスが神妙な顔付きになって呟いてみせる。
確かに、あの族長が言ってる事は不思議だ。
どうして、私の事を知っているのか?
どうして、今ある展開をあたかも前々から知っていたかの様な態度を取る事が出来るのか?
その答えを出す事は、今の私には出来ない……出来ないんだけど、だ?
「私からすれば、どうしてお前も昔の私を知っているんだと聞きたいんだが……?」
私は苦い顔になってユニクスへと答えた。
……中央大陸の怪童。
誰がそう呼び始めたのかなんて知らないし、私も好きでそんな呼ばれ方をsいていた訳でもなかったんだけど……いつの間にか、そんな通り名が定着していた時期もあった。
私が、冒険者協会の門を叩いて間もない頃……数年ばかりはその名前で呼ばれた時があったな……なんぞと、かつての自分を振り返る。
正直、あんまり良い気分はしなかったぞ?
なんて言っても、怪童だからな?
当時の私は、本当の意味で十代だったから、そんな風な通り名になったのかも知れないけど……呼ばれている当人からすれば良い迷惑だった。
普通に考えて見よう?
十代の乙女が、怪物呼ばわりされて良い気分になるだろうか?
人によっては悪い気持ちにはならないかも知れないけど……当時の私にとっては、ちょっとした黒歴史レベルだ!
ハッキリ言って最低な思い出だったぞ!
どうして、華も恥じらう乙女時代に、怪物の様な呼び名をあてがわれないと行けないのかっ!?
そもそも、見た目的にも美少女だったろっ!?
自分で言うのは物凄く悲しいけど、可愛い外見してたろっ!?
そんなの相手に、どぉぉぉぉぉして『怪童』とか呼ぶ?
せめて、もう少しオブラートに包む様な名前にしとけよ!……と、大人になった今でも思うよ!
まぁ、今となっては私の追憶の彼方にある黒歴史に過ぎないので、こんな所で、再びその名前を聞く事になるとは思ってもしなかったんだけどさ……。
「……ふふふ、リダ様? このユニクス・ハロウ。リダ様の事であるのなら、生まれた時から現在に至るまでの一分一秒の全てを知り尽くす程度の気概は見せて当然だと思っております!……って、リダ様? だから右手はおやめ下さい! 私が何をしたと言うのです?……あ、ほ、本当に! 真面目な所、こんな所で爆発なんかしたら、敵の思うツボですから! ちょっ……リダ様っ!?」
ドォォォォォンッッッ!
ユニクスは爆発した。
もう、これでもかって位に盛大な爆発の仕方をしてみせた。
「……くっ! 何て事だ! この戦いが始まって……とうとう犠牲者が一人出てしまったぞ!?」
「……いや、リダさんが爆破したんじゃないのさ……」
爆発して目を渦巻きにしたままバッタリと倒れてしまったユニクスを見て、私が悲痛の面持ちのまま項垂れていると、即座にミドリさんの冷ややかなツッコミがやって来た。
密かに間違いではなかったので、私も反論する事は出来なかった。
「……って言うか、凄いねリダさん。本来なら、このテントごと爆破してしまう様な超魔法を発動させていたのに、爆発したのはユニクスさんだけで済んでるし?」
直後、ミドリさんは少し感心する形でこんな事を言う。
やっている事は決して自慢出来る事ではないかも知れないが、私が発動した魔法の技術と言うか、発動状態だけは確かに特殊だ。
なんと言っても、元来なら周囲に広がる爆風を周囲に散らばる事なく爆発させる……とか言う、不可思議な光景が生まれていたからだ。
冷静に考えると、かなり不自然に見えた事だろう。




