激戦! リダさん、どうしてかイリさんと戦う【1】
トウキは比較的、広い河川敷がある。
恐らく、それは湾岸沿いにあるからとか、もうすぐ終点の川ばかりだからとか、様々な理由があるんだろうが、そこは置いておく。
どちらにせよ、郊外であっても住宅密集地だったりするのが定石の巨大都市トウキだと、メチャメチャな実力を持つ連中が少し本気出しただけで事件か事故になってしまう。
場合によっては、ちょっとした災害にすらなりかねない連中だけに......まぁ、正直に言うと河川敷ですら少し心配な位だ。
「着いたぞ......ここだ」
軽く案内した私は、土手をのぼった先にある河川敷を指差した。
「結構、広いのな」
「そうだね。トウキって土地が無いと言うか......建物だらけだったから、見晴らし良いトコに来ると違和感があるね」
河川敷に到着してすぐに、イリとキイロの二人は意外そうな声音を吐き出した。
そうか?
言う程、開けているとは思えないんだが?
内心は、都心を離れると言う選択肢も浮かんでいたし、大きな公園とかでも良いかな? とも考えたが......まぁ、地味に遠いし。
ここで済むのなら、それに越した事はない。
......てか、ここで済む程度の戦闘で上手くまとめてくれ。
「リダ様、フラウにルミ様を任せて来ました」
ワンテンポ置いてから、ユニクスが河川敷にやって来て、私にそうと答えて見せる。
もう遅いからって言うのもあるが、巻き添えを喰らう危険性を加味しての事だ。
相手の実力は良く分かっていないが......ほぼ、高確率でルミやフラウを上回る実力を持っているだろう。
そうであるのなら、面倒な事になる前に帰らせた方が二人の為だろう。
都合良くルミが酔い潰れていたのが、こんな所で幸いした。
そこらはさて置き。
「じゃあ、はじめようか......宣言して置くが、俺は標的を殺しに来た。確かに暗殺者らしくない方法を取ってはいるが、この戦いに負ける事は死ぬ事だと思え」
河川敷にやって来たジャンは、やっぱり仁王立ちで私達と対峙していた。
なんだろう?
仁王立ちが趣味の人間なのか?
それとも、それが格好良いと思ってる十四才なのか?
どの道、そこまで格好良くはないぞ?
「大丈夫だ。問題ない」
イリはしれっとフラグの台詞を言っていた。
それ、かなり危険な台詞だぞ?
一番上等な武器をくれとか、後で言い出す台詞だぞ?
まぁ、この戦いが終わったら結婚するんだ的なフラグよりは弱いだろうからヨシとする。
「私は戦った方が良い?」
隣にいたキイロがそれとなく、イリに聞いて見る。
「必要だと思うか?」
イリはやや不思議そうな顔になって逆に尋ねていた。
キイロは肩をすくめる。
「ないと思う」
答えてから、キイロは苦笑した。
「......ほう」
ジャンの眉がピクリと動く。
「それは俺を過小評価してるのか? それとも? ただ女の前で格好付けたいだけか?」
「そうだな、どっちも正解。けど一番は違うかな」
そこかしこに怒気を含めた声音をぶつけるジャンに、イリはいつもの冗談めかしたスタイルで返答して見せる。
「一番は......そうだな? ただただキイロを戦闘に巻き込みたくない。これでも大事な俺の相棒だからな」
「イリ......そこは『俺の女』って言おうっ!」
決まり文句を口にした感じで言ってたイリだが、間もなくキイロにダメだしを喰らっていた。
なんだか、すごーく格好悪かった。
「女って言ったら、お前の彼氏は俺になるだろう? それ言ったらルミにマジで殺されるからな?」
「大丈夫! 骨は拾ってあげる!」
......いい加減、戦闘しませんかねぇ?
地味にイチャイチャしてる、甘ったるい会話が続いていた中、色恋前線から一歩後退気味の私は......あ、いや! カップルを見て悔しいとかって訳じゃないからなっ!
まぁ、冷静に会話の内容を聞くと、わりと泥々した殺伐風味な内容なんだけどさ。
けど、そーゆー台詞を、私もしたい訳だよ......ん?
「大丈夫です、リダ様! 貴女には私がっ!」
私の意図を汲んでか、ユニクスがやけに情熱的な眼差しで私へと叫んでいた。
......あー、もしもし?
「超炎熱爆破魔法を使っても良いか?」
「すいません! 冗談です! 百分の一程度はっ!」
「99% 本気じゃないかっ!」
ドォォォォォォン!
ユニクスは爆発した。
けど、流石に超炎熱爆破魔法は可哀想だったから、ただの爆破魔法にして置いた。
「あ、愛が爆発してますっ!」
勝手に一人で爆発してろっ!
取り敢えず、一人で身悶える勇者は無視して。
私は、河川敷で一触即発状態だったイリとジャンへと視点を変えた。




