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アリン、居なくなる【22】

「……リダ様が……リダ様が……デレたっ!」


 誰がデレたと?

 そして、答えたユニクスの表情は……ああ、これはいつもの病気が発症したな。


 ここ暫くはまともな状態が続いていたから、少なからずこのワープトラップを抜けるまでの間程度は大丈夫だと高を括っていたんだけど……やっぱりユニクスはユニクスだった様だ。


 仕方ない、お前の病気に良く効く特効薬をお見舞いしてやる。


 爆破魔法と言う特効薬をなっ!?


 ……思い、完全にいつもの発作が発症していたユニクス目掛けて爆発魔法を発動させようと、頭の中に魔導式を紡ぎ始めた……その時だった。


 ガチャッ!


 部屋のドアが開いた。

 

 ……ん? 誰だ?


 見る限り、ローグルさんを含めた全メンバーはこの部屋にいる。

 そうなると、この部屋には全員がいる筈なんだが……?


 そんな事を考えつつ、ドアの方へと目線を向けると、そこにいたのは最初に出会った獣人……族長さんの姿があった。


「どうやら、全員が戻ったみたいだな? それなら結構。話がしやすくて、都合が良い」


 族長さんはニンマリと朗らかに笑って答えた。


「……話、ですか?」


 私はそれとなく惚け風味の声を口にする。

 話の内容は大方、予測する事が出来る。

 その上で、敢えて尋ねている為、どこか空惚けた口調の様になってしまった。


「そうさ? ローグル殿から聞いてないか? 今、この里は窮地に貧しておってな?」


 ……ああ、やっぱりか。

 予想通りの言葉が返って来たので、私も内心でのみ納得する。


「最初から、この為に私達を自分の里に招いたのですか?」


 そこから再び尋ねた。

 元来、自分達のテリトリーに余所者が侵入すれば、少なからず警戒される。


 実際に私達は大きく警戒され……そして、族長がわざわざ出張る形で私達の前に現れると警告紛いな言葉を放って来た。


 だが、それでも何処か丁寧で……かつ、私達を里の中に入れる所か、こうして自分の屋敷にある客室へと私達を招き入れた。


 普通に考えたら、何処か矛盾した行為だ。

 口はぶっきらぼうでも、優しい族長だと考えて来た私だが……やっぱり、これはおかしい。


 だが、里の中で起こっている問題を私達に解決させようとしていたのなら、どうだろう?


 それまであった矛盾が、全てナチュラルな物に変わってしまう。


 しかし、ここでも疑問がある。


 噂では、本土の人間が里を脅かす行為をしていると言う。

 そして、私達は人間だ。

 獣人が、一目で同じ人間を違う大陸の人間であると認識する事が出来るのだろうか?


 人種が違うとか、そう言うレベルではない。

 完全に種族が違うのだ。

 見た目で簡単に判別出来るだけの判断力があるだろうか?


 抽象的に別の物で言うのなら、私達人間が犬や猫を見て、その犬や猫が何処の出生であるのかを一瞬で見抜けるか?……と言う事だ。

 ハッキリ言って、これは極めて難しい事だろう。


 ただ、一つ……アッサリと看破する方法があったとするのであれば……。


「もしかして、族長……あなたは最初から全てを知っていたのでは?」


 ……私は神妙な顔になって族長へと答えた。


「……どうして、そう思う?」


 すると、含み笑いの様な笑みを浮かべてながらも族長が、逆に私へと尋ねて来る。


「……それは」


 私は少し言いよどんでしまう。


 確たる証拠があって、そうと族長に言っていた訳ではないからだ。


 ただ、族長がやっている事は、余りにもスムーズ過ぎるのだ。

 

 あたかも、最初からこうなる事が分かっていたかの様な? 

 そんな、何もかもが予定調和の一つとして盛り込まれていたんじゃないのか? と、勘繰りたくなるまでのスムーズな行動を取って来ている。


 そうなれば、いやでも思うだろう。


 族長は、最初からこうなる事をあらかじめ知っていたのではないのか?……と。


「……分からないか? ふん……まぁ、良いだろう」


 言い淀む私の姿を見て、族長は納得混じりの声音を軽く吐き出して来た。


 一体、何が良いのか?

 ともすれば、私がこうと述べている行為その物も、族長の中では予定調和の一つであったのかも知れないが。


 ……ぐぅむ。


 何だろう? この、妙に未来を知ってますよ的な感覚は。


 もしかして、この族長は……未来人か何かなのだろうか?

 胸中でのみ、なんとも珍妙なうそぶきを呟く私がいた頃……族長は、少し考える仕草をみせてから私達へと答えた。


「ここは現実であり……現実ではない場所……そうとだけ述べて置こうか?」


 かなり含みのある台詞を。


 現実であって、現実ではない?


 もはや、ちょっとした謎掛けの様な台詞にすら感じた。

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