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アリン、居なくなる【20】

 同時に、私は素朴な疑問を持った。


「……でも、里の獣人達が、良く私達を違う大陸の人間だと信じてくれたな……まぁ、助かったけどさ?」


「そこなんだけどさ? この里の族長さんだっけ?……ほら、最初に会った獣人。その人が里のみんなにそう言ったんだよ?『この者達には本土にある特有の言葉訛りがない』ってさ? つまり、別の土地からやって来ている人間だと、族長さんが言ってくれたお陰で、回りの獣人も幾らかは信用したって話さ?」


「……なるほど、族長が言ってくれたのか」


 そう言えば、あの族長はなんて名前なんだろう?

 ここの里にいる獣人は、ほぼほぼ被り物の名前をしているから、それ関連の名前な気がするけどさ?


「相変わらずぶっきらぼうな獣人さんだけど、俺にはいい人にしか見えなかったよ……ヤマネ子さん」


 被り物、全然関係なかった!


 しかも、ヤマネ子って何だよっ!?

 イリオモテ・ヤマネコって言いたいのかよっ!?


 そう言えば、ここの猫みたいな獣人達は、イリオモテ・ヤマネコ族とか言ってたな……。


 どうでも良いけど、マジでここからイリオモテ島は遠いぞ!

 1000キロ単位で遠いぞ!

 

 ここがイイキ島であるのなら、イリオモテ島までは南半球の端から端ぐらいの距離があるのに、どぉぉぉぉしてそう言うおかしな名前になるんだ?


 私的な感覚で言うのなら、全く縁もゆかりもない場所で、ツッコミを待っているかの様な猛烈なボケをかましてくれている様にしか感じない。


 けれど……きっと、普通に本気でそう言っているのだろう。


 一体……イリオモテ・ヤマネコ族にその様な民族移動が起こっていたと言うのだろう?

 まぁ、見た感じは結構な行動力のある獣人っぽいから、里の先祖に当たる獣人達がイリオモテ島から遠路遥々イイキ島まで移民して来たのかも知れないが。


 どちらにせよ、素朴過ぎる疑問だし……何より、解けない謎な気がするので、考えるのはここまでにして置く。


 それに、問題はそこではなかった。


「もしかしたら、リダさんにも直接お願いしに来るかも知れないけど……前以て、俺の方からも言って置くよ。族長が里の危機を救って欲しいと俺達に言って来たんだ」


 ローグルさんは真剣な顔になって私とユニクスの二人へと言って来た。

 口振りからすると、自分の情報を話すと言うよりも、提案を口にする……そんな言い方だった。


 だからだろう。


「ちょっと待って下さいよ、ローグルさん? その言い方だと……あなた達まで里の獣人達を助ける気でいるのですか?」


 即座にユニクスが眉を捻ってローグルへと不平を口にした。


 実際、今は余計なお節介なんぞ焼いている場合じゃないと、私にも言って来たユニクスなのだ。

 当然ながら、私と同じ様な案件を持ち込んで来たのだろうローグルさんに対しても良い顔は出来ないだろう。


 実際、不満を露骨に作っていたユニクスは、今にも反対意見を言いたそうにローグルさんを見据えている。


 他方のローグルさんも、ユニクスの考えを理解していたのか? 肩をすくめてから声を出して来る。


「ユニクスさん……キミの言いたい事は分かる。俺としても『本当なら』ユニクスさんと同意見だ」


「……なら、どうしてローグルさんはこの様な話を私やリダ様へと持って来るのです? 答えは話すよりも先に出ているではありませんか?」


「言ったろう?『本当なら』と」


 眉を釣り上げて言うユニクスへと、ローグルさんは何やら含みのある言葉を投げ掛けて来た。


「……どう言う事です?」


「あの族長さんが言うんだよ……この里を助けてくれたのであれば、俺達が元の場所に戻る方法を教えてやる……ってさ?」


「……っ!?」


 ローグルさんの言葉に、ユニクスは思わず唖然となってしまった。

 もちろん、隣にいた私としても驚きの内容でもある。


 なんと言っても、現地に住んでいる獣人なのだ。

 いくら、この里を治めている族長さんだかと言って、特別な能力があるとは思えない。


 つまり……族長が私達を救うと言う裏付けが、全く思い当たらないのだ。


 ……しかしながら、思うのだ。


 あの族長が、嘘を吐いて来る物だろうか?


 ともすれば、今の里は最悪の状況にあり……藁にもすがりたいまで追い込まれているが故に、嘘を吐いてでも私達に助けを求めているのかも知れない。


 だけど……そうだろうか?


 もしかしたら、本当に私達をワープ前の場所へと戻す手段を知っているのかも知れない。

 何となくではあるけど……あの族長がここまで分かりやすい嘘を平然と口にするとは思えなかったのだ。


 ただ、そうなると……あの族長は、何者なのか?


 そもそも、私達を本土の人間ではない……と言う事を周囲の獣人達に宣言までしている。


 逆に言うと、族長だけは私達が『中央大陸の人間』である事に気付いたのだ。


 言葉訛りが違うから……とか言っていたけど、根本的に南西大陸の人間は中央大陸で使われている共通語なんて使わない。


 簡素に言うのであれば、訛りとか方言とか言う次元の問題などではなく、最初から言葉その物が違うんだ。


 他方、言語関連で言うのなら、ここにも素朴な疑問がある。

 どうして、ここの獣人達は中央大陸の共通語を使っているんだ?


 言葉で分かったと言うけど……じゃあ、アンタらも遠く離れた異国の言葉を流暢に使ってるのは何でだ?

 

 普通、近くの地域の言葉か、それに類似する言葉を使うんじゃないのか?


 私の中にある珍妙な疑念は膨らむ一方だ。

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