アリン、居なくなる【16】
やたら自信がある様だな?
もしかしたら、本当に実力のある大魔導師なんだろうか?
「実は、空間転移魔法を使える獣人を探していたのですが……」
「空間転移? え? 何それ? サンバイザーちゃん、わかんなぁ~い」
分かんないのかよっ!?
あれだけ堂々と胸まで張っていたのにかっ!?
しかも、妙にブリッ子口調なんですけどっ!?
ある意味で予想通りと言うか……何と言うか、アッサリ出来ない事実が明らかになった。
「なんだよ……サンバイザー。何でも聞いてやると大見得を切っていた割りには情けないなぁ?」
程なくして、シルクハットを被っていた獣人のボーシさんが、嘆息混じりに呆れて見せる。
「私は、何でも話を『聞いてやる』と言ったんだ。叶えるとは言ってない!」
すると、サンバイザーさんは屁理屈以外の何物でもない台詞を堂々と口にしていた。
……うむ。
取り敢えず、この獣人さんには期待する事が出来ないな。
「それなら、空間転移魔法を使う事が出来る知人とか知りませんか?」
「そもそも、空間転移魔法って何? あたしゃ、始めて聞いたんですけど~?」
今度はギャル風に言って来るサンバイザーさん。
平成の時点で絶滅寸前だったと言うのに、令和の世でそんな態度をした日には、周囲から異端者の目で見られる事、請け合いだ。
……っと、そんな事はどうでも良かった。
「なるほど……分かりました。ありがとうございました」
私は短くお礼を言ってから頭を下げ、そそくさとその場を後にしようとする。
もう、ここに居る必要は完全になくなってしまったからな。
里でも指折りの変わり者らしいし、変に関わるとロクな事になりそうもない。
これにはユニクスも激しく同意しているのか? 淡白にその場を立ち去ろうとした私の行動を見て、満足そうな顔を作っていた。
……の、だが。
「いや、待て。見た所……人間の割りには強い魔力を持っていそうではないか? この私を里一番の大魔導師と直ぐに分かった洞察力と言い……ただものではあるまい?」
逃げる様に立ち去ろうとした私を、サンバイザーさんは素早く掴んでは、妙ちきりんな台詞を口にして来た。
里一番の大魔導師とすぐに分かった洞察力とか言うが、この里にはアンタしか魔法を使う獣人が居ないからじゃないか。
そんな事、別に私じゃなくても分かる事だし、そもそも魔力は関係ないと思うぞ?
「私はしがない学生でしかありませんよ……特別な魔力とかも、当然の様にありませんから」
「そんなに謙遜する事はあるまい? 分かってる……うん、分かってるよ? 能ある鷹は爪が甘いと昔から良く言うしね?」
その鷹は、きっと能無しだと思う。
うんうんと頷きながらもボケた事をほざくサンバイザーさん。
きっと、言ってる本人は、如何にもそれっぽい事を言っているつもりなのかも知れないけど……私からすれば、ただのナチュラルなボケにしか聞こえない。
生憎、私はアンタのナチュラルテイストなボケに付き合っていられる程、暇ではないんだよ……。
「そんな、能ある鷹の君に一つ提案だ。実は、この里にはちょっとした危機が迫っている……なぁ~に、大した事じゃないさ? 里一番の大魔導師たる、この私がいれば全てが事足りる話ではあるのさ?」
それなら、あなたがやれば良いでしょうに。
私は胸中で苦い顔になってぼやいた。
実際、口から出掛かったりもしたのだが、
「しかし、残念な事に……今の私は持病の『明日から頑張るけど、明日になったらまた明日になっている病』が発症していてな? どうにもモチベーションが上がらないんだ」
それは、ただただ無気力なだけなんじゃ……。
物凄く残念そうな顔になって言うサンバイザーさんに、私はツッコミを入れるのも馬鹿馬鹿しい気持ちにすらなっていた。
「そこで、お願いがある。私の代わりに里の危機を救ってはくれないか?」
答えたサンバイザーさんは、少しばかり真剣な顔になって私へと言う。
台詞の内容だけを耳にすると……この人は真性のバカなんじゃないのかな? と、割かし本気で思えるのだが、この時に見せた彼女の顔だけをピックアップして述べるのであれば、かなり切実そうな表情に見えた。
……と、その時だ。
「余所者に、余計な事を言うんじゃない……」
思わぬ所から声が転がって来る。
今の今まで口を一切動かさなかったバンダナを巻いている獣人……名前もそのまま過ぎるバンダナさんの声だった。




