アリン、居なくなる【15】
過度の期待は出来ないが、それでも希望の光だけは捨てないで置こうと考えつつ、私は頭にバンダナを付けた猫の獣人……名前もそのままバンダナと言う、何から何までそのまま過ぎて草しか生えない物静かな獣人と、頭にシルクハットの様な物を被っている獣人で、名前がボーシとか言う……アンタの名前もそのまんまなのかよと、猛烈にツッコミを入れたくなってしまう様な大概さを持つ獣人の二人に案内される形で、サンバイザーとか言う自称・里一番の大魔導師の元へと向かった。
きっと、この大魔導師は頭にサンバイザーを付けているんだろう。
特に根拠と言う根拠はないんだけど、この調子であるのなら間違いなくそーゆー成り行きが待っているんじゃないかなと本気で思っていた。
果たして、サンバイザーさんの自宅に向かうと……案の定、サンバイザーを頭に被った猫の獣人が出て来た。
これからテニスラケットでも握って、コートを走り回るのですか? と言いたくなる様なのを頭に付けていた。
しかし、格好は黒いローブと言う、いかにも魔法使いらしい格好だった。
普通、こう言う格好をしているのなら、頭に被るのは同色の三角帽子なんじゃないだろうか?
もはや、魔法使いなのかアウトドアを楽しみたいのか、サッパリ分からない格好をしていた猫の獣人。
そんなサンバイザーさんは、煉瓦で出来た比較的頑強そうな家から顔を出して来る。
集落に建っている家は、基本的に茅葺きの屋根と土壁だったので、この家だけ他とは少し変わった造りになっていた。
私としては煉瓦造りの家の方がむしろ近所に良く建っていたので、余り違和感を抱く事はなかったのだが、土壁と茅葺き屋根の家が多い所でポツンと煉瓦造りの家があると、地味に浮いた建物になってしまう様な気がした。
……まぁ、こんなのは本人の自由だし、特に何かを言うつもりなんかないのだが。
「何だ、バンダナとボーシか?……そして、お前らは……本土の人間なのか?」
サンバイザーさんは、私達の顔を見た瞬間に眉を寄せた。
表情を見る限りでは分からない部分もあるんだが、純粋に驚いていると言うか、物珍しい目で私達を見ていると言う感じだ。
「本土が何処を指して言ってるのか知らないけど、人間である事だけは確かですよ」
サンバイザーさんの言葉に、私は愛想良く微笑んでから声を返した。
すると、案内役だったボーシさんがサンバイザーさんへと口を開く。
「俺も良くは知らないけど、なんでも里一番の大魔導師と言う話を聞いて、是非会いたかったそうだぞ?」
そして、この言葉を耳にした瞬間、サンバイザーさんの耳がピクッ! っと、動いた。
そこから、
「……ふ、ふひひひ……」
何やら、おかしな笑いを不気味に浮かべるサンバイザーさんは、すかさず決めポーズの様な物を取ってから声高に叫んでみせる。
「如何にも! 私こそがキャップの里一番の大魔導師、サンバイザー! 比類なき魔導力を持つ獣人界のプリンセスだ!」
魔導師なのに、プリンセスなんですね。
取り敢えず、性別が女だって事だけは分かりましたよ。
獣人の性別は、今一つ分からないから、ある意味で助かったかも知れないけど、有益な情報からは大きくかけ離れていた。
「私の魔導力に掛かれば、プリンス・メロンなど目ではないぞ? そう……この魔力は世界を相手に出来るだけの破壊力があるのだ!」
ライバルはメロンなのに、世界を相手に出来るんですね。
変わり者だとは聞いていたけど、ここまでおかしな人だとは思わなかった。
「そ……そうですか……」
一応の相づちを打ってみせる私。
この時点で、既に私の中にあった期待度は大きく低下していた。
見れば、近くにいたユニクスなど顔で『ここに居るのは時間の無駄なのでは?』って感じの事を言っていたりもしたし、その言葉に同意したい私なんぞもいたんだけど……せっかくここまで来たのだ、取り敢えずはここに来た目的だけでも果たそうかと思う。
もはや、この時点で絶望的な気がしたのだが……私の目的は空間転移魔法を発動する事が出来る魔導師に会う事。
仮に……と言うか、ほぼ絶対に等しい程、無理そうではあるんだけど、空間転移魔法を使う事が出来なかったとしても、その手の魔法を使う事が出来る知人を知っているかも知れない。
どちらにせよ、言うだけならタダなのだ。
ダメ元で聞いてみようか。
「所で、里一番の大魔導師と噂のサンバイザーさんに、早速聞きたい事があるのですが……よろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ! どんな話でも聞いてやろうじゃないか!」
愛想笑いを保持した状態で尋ねた私に、サンバイザーさんは胸を張って声を返していた。




