アリン、居なくなる【11】
「……所で、私の事を忘れてはいまいな?」
ビミョーな空気と言うか、私の正体を華麗にバラしてくれたユニクスを、後で爆破してやろうと頑なに心に刻んだ所で、獣人がイライラした表情で私達に声を掛けて来た。
ナイスだ、獣人さん!
名前も種族も良く分からない人だけど、やっぱりアンタは良い獣人だなっ!
「あ、すいません……わざとではないんですよ!」
直後、私は素早く頭を下げて見せた。
私としては、これでおかしなムードが一瞬で払拭され……かつ、本題に戻る事が出来たので、万々歳だった。
「ふん………まぁ、良いさ。見た所、アンタ達はこの森で迷う形で転がり込んで来ただけの珍客の様だし……特に私達に喧嘩を売るつもりもなさそうだし……」
しかも、予想以上に優しいぞ、この獣人さん!
何処か妥協混じりではあったが、確実に話が通じると言う事だけは分かるだろう、理解ある態度をみせていた獣人さんに、私は一種の感動すら覚えていた。
やっぱり、理知と理解ある者は、全身がけむくじゃらであろうと、顔が猫みたいだろうと素晴らしい存在だと思うよ!
「ただし、私達の縄張りを少しでも荒らす様な真似をする様なら容赦しない……そこだけは肝に命じておけ」
そこから警告する感じの台詞を言いつつ、
「何もしないと約束出来るのなら、ついて来い」
素っ気ない声ながらも、こんな感じの台詞を言って来る。
……どうする?
確かに優しそうではあるんだが……。
「リダ様、罠かも知れませんよ……」
途中、ユニクスがソッと私に耳打ちして来た。
言いたい事は分かる。
少なからず、私達を罠にはめる可能性だってあるだろう。
しかし、
「行くだけ行ってみよう。もし罠だと分かったら、その時点で行動しても遅くはない」
私は笑みで言う。
すると、ユニクスは少しだけ考える様な仕種をみせてから頷いて、
「分かりました。ただ、気をつけて……油断をしないで行きましょう」
そう答えてから笑みを作った。
ユニクスとしては、余り良い選択ではないと思っていたのだろう。
……当然だ。
獣人さんは良い人っぽくは見えるけど、実際の所は良く分からないと言うのが現状だからな?
まして、自分達のテリトリー内に入っている私達を、快く思っている筈もない。
しかし……それでも思うのだ。
ここは、獣人さんを信じてみようと。
他方、ローグルさんも然り気無く私の言葉を聞いていたらしく、
「リダさんがそう思うのなら、それで構わないさ……なんて言うか、イリの旦那と同様、あなたには絶対の自信と言うか信頼があると思う。普通に考えたら天地がひっくり返っても無理な状態であったとしても、それでも覆してしまう様な、そんな根拠のない無条件の信頼みたいな物が……さ?」
瞳をやんわりと細めて答えた。
イリと同様ねぇ……。
まぁ、確かにイリは不可能を可能にしている様な事を平然とやってしまいそうではあるし、それと同格の扱いを受けるのは悪い気はしないな。
どちらにせよ、私を信用してくれているのは嬉しい限りだ。
この信用にしっかりと応えて行かないとな!
「そう言ってくれると助かる。ただ、可能な限り私もローグルさん達を助けるつもりではいるけど、万が一の時って事もある。気持ちを引き締めて欲しい」
「……ああ、流石にそこまで甘えるつもりはないさ? 俺も俺なりに考えて、あなたの言葉を肯定してるのさ」
私の言葉に、ローグルさんは再び笑みで答えた。
「さっきから、何をこそこそと話をしてるんだ?……それと、こっちは良心でやってるんだ。余計な事は考えるだけ無駄だぞ?」
程なくして、獣人さんが片眉を捻りながら言う。
……ああ、私達の会話を聞いてたのね。
一応、聞こえない程度の声で会話をしていたんだけど、どうやら獣人の耳はかなり良いらしい。
地獄耳ならぬ獣耳と言う所だろうか?
てか、それだと単なる飾りの耳みたいなニュアンスになってしまいそうだ。
「あはは……す、すいませんねぇ……私達も不安で仕方ないんですよ」
色々とバレている気がしたので、私は素直に答えてから頭を下げる。
こんな言い方もどうかとは思うんだけど……お茶を濁すにしても、ここは透明性を明らかにした方が良いと判断したのだ。
「ふん……この先に、私達の住んでいる里がある。多少だが食料も分けてやろうと言うんだ。感謝こそされても、恨まれる様な真似なんかしてないからな?」
相変わらず口調こそぶっきらぼうではあるが、聞く限りではかなり良い人と思われる様な台詞を言って来る獣人さん。
言葉を額面通りに受け取れば、これ程に良い人も居ないだろう。
果たして、獣人さんの答えた通り、そこに里があった。
……うむ。
やっぱり、人を最初から疑って掛かるのは行けないな!




