アリン、居なくなる【10】
「……場所だけ……ではない?」
……あ、ローグルさんがポカンとした顔になってる。
そ、そうだよな? 普通はそんな事を考えないと思うし? わ、私もちょっぴり非現実かなぁ……なんて、思い始めて来た所だよっ!
唖然とした顔になっているローグルさんの態度を見て、私の額に少しだけ嫌な汗が流れた。
これが原因で、私の事を変な空想と幻想を抱く十四才の女の子と思われたら嫌だな……。
「リダ様……それは少し妄想……もとい、考え過ぎなのでは?」
……てか、お前までそんな事を言うのか? ユニクスさんよっ!?
然り気無く手を口許に抑えて『ププッ……』と笑っていたユニクス。
……く、くそ……何か物凄く屈辱だ!
「なるほど……そうか、俺達はワープした。よって、時空を越えている可能性があるのか」
他方のローグルさんは、私の言った言葉を耳にしてハッ! っとした顔になる。
……お、お陰で私がメルヘンな空想乙女に陥るまでには至らなかった。
それにしても、ユニクスのヤツ……自分もバカな存在と思われるのが嫌だからって、私をバカな子に仕立て上げようとしただろっ!?
くそ……後で覚えて置けよっっ!?
……と、それはさておき。
何だかんだで切れ者と言えるのがローグルさんだ。
多分、私の言った事が大きなヒントになったからだろう。
もしかしたら、それとなく私へと配慮する為に、敢えて『良く気付いたな!』的な態度を取ってくれているのかも知れないけど……仮にそうであったとしても、かなり良い人! って事になるので、どちらに転んでも私的には大きな好感を受けた。
「ああ……まぁ……なんて言うか、さ? もしかしたら……その可能性もあるんじゃないかな……って」
「可能性は確かにあるぞ、リダさん。しかし、憶測であったとしても、良くそんな答えを出す事が出来たな? もしかしたら、ただ者ではないのか?」
「いや、私は普通の学生かな?」
驚きと感心を重ね合わせた様な声で言うローグルさんに、私はひたすら苦笑する形で声を返していた。
いいぞ、ローグルさん。
その、ナチュラルに驚いている態度!
まるで、本気で今知った新事実みたいな? そんな感じに聞こえるし!
ただ、もう良いよ?
これ以上、大袈裟に立てられると、むしろわざとらしい感じがするし……。
「学生? そんな事はないだろう? このダンジョンをここまでやって来ているんだ。まして、あのナマズを一発でのしてる……この時点で、リダさんは普通の人間ではないと思ってたんだ」
……あの、もしかして、演技じゃなくて本気で驚いてる?
余りにも突飛でもない事を言った私に対するフォローをしている物だとばかり思っていたのだが……そうやら、素で言っている模様だ。
…………。
どうしよ。
それはそれでちょっと困るんですけど。
……って、こんな事を考えている私の心境がバレたら、面倒な女だって思われそうだな。
よし、ここは私の胸にだけしまって置こうか!
「本当に普通の学生ですよ……ほら、これ」
言うなり、私は自分の学生証を出して見せる。
今の今まで、特に役立った事はないんだが、一応は携帯している。
時々、余りにも使わなすぎて、何処にしまったのか忘れてしまうまでに存在感の薄い学生証だが、そこは愛嬌だ。
「…………」
学生証を渡されたローグルさんは、その中身を見て再度ポカンとなってしまう。
なんと言うか……今までの中で一番の驚き……そんな顔をしていた。
「最近の学生って……レベル高いんだな……」
本物の学生だと理解したローグルさんは、誰に言う訳でもなく呟いてみせた。
……すまん、ローグルさん。
私が学生だと言う事は本当ではあるが、学園に在籍する生徒の全員が私みたいな連中と言う訳ではないんだ。
むしろ、特殊かも知れない。
しかし、そんな事を言ってしまえば、余計に話がこじれてしまうと思った私は、敢えて口にしないでいると、
「リダさんは、確かに学生ではあるけど、特別かな……って、思いますよ?」
余計な事を言うミドリさんがっ!?
……って、だから! 話がややこしくなるからやめてっっ!
「そうです! リダ様は学生にして冒険者協会の会長をしております! ここまで特殊な方など、前代未聞! いや、空前絶後と言えるでしょう!」
そして、ユニクス! 貴様は後で爆破なっっ!?
ミドリさんの言葉を耳にして、ここぞとばかりに出番が来たと言うばかりの勢いで叫んで来たユニクス。
これにはローグルさんも更にポカーンッ! っと、口を開ける事しか出来なかった。
……いや、どうするんだよ、この空気。
確実におかしな空気になっちゃったじゃないか!




