アリン、居なくなる【7】
極論からして、遭遇した冒険者は知人が混じっていると言う、世間は広い様で狭いなぁ……的な状態こそあれ、これと言った情報は得られなかった。
ここに関して言うのなら、そこまでの期待はしてなかったんだけどさ?
最初から期待してない……こんな言い回しだと、ミドリさん達に失礼かも知れないが、彼女達だってこの階層にはまだ来たばかりだと思っていたからだ。
言うなれば、今の私達と限りなく同じ状態だと思っていたし……そうなれば、情報を集めている段階だったんじゃないかな? って、私は考えていたのだ。
ただ、仲間が増えたと言うのは嬉しくもある。
少なからず、互いに知恵を出し合う相手が増えたと言うのは、私にとって大きな利点だ。
ミドリさんの話を聞いた限りだと、どうやらこのエリアに来る前まではイリ達と一緒に居たらしい。
この話を聞いて合点が行った。
このエリアまで短時間でサクサク進んだは良いが、パーティーが強制離散した事でイリとも離れてしまった。
恐らく、イリが主戦力のパーティーであったが故に、このエリアのモンスターは脅威以外の何物でもなかったのだろう。
そう言った意味では、間一髪で合流する事が出来たのは幸運だった。
ただ、ミドリさんの実力は中々の物だと言う事が、後で判明するので……もしかしたら、私達が助けに入らなくても自力でどうにかしたかも知れないんだけどな?
ま? なんにせよ、大事には至らなかったからヨシとして置こうか。
こうして、私達はミドリさん達三人と合流し、四層目の攻略を進めて行く事になるのだった。
○□●□○
ミドリさん、ローグルさん、コニアさんと遭遇し、五人パーティーになった私達は、以後も道無き道を進んで行く。
見る限り、何処まで行っても同じ様な風景ばかりが続いているな。
もはや、サバイバルをやっている様な気分にすらなるぞ……。
まぁ、冷静に考えてみたら、冒険者のやっている事なんてサバイバル生活の延長線上にあったりもするので、これはこれで特に苦になる程でもないんだけどさ。
「……リダ様」
特に当てがあった訳ではないのだが、取り敢えず前に向かって歩いていた時……ユニクスがいつになく神妙な顔になって私へと声を向けて来た。
ただ、何となくではあったが、ユニクスの言いたい事は分かる。
さっきから、妙な視線の様な物を感じてはいるんだよな。
大体、十分程度前だろうか?
その辺りから……誰かに見られているかの様な? そんな視線の様な物を感じてはいた。
……そう。
感じてはいたんだ。
しかし、その視線には殺意の類いは無く……どちらかと言うと警戒心と好奇心の二つを合わせたかの様な視線に感じていた。
更に言うのであれば、さっきからコチラを観察するだけで、特にそれ以上のアクションを起こす様子はない。
恐らく……私達が自分達のテリトリーに入って来たので警戒しているだけなのだろう。
そして、縄張り意識の様な物はあっても、テリトリーに入った瞬間に排除しようと言う程、乱暴な存在ではないらしい。
ここから先は私なりの予測も加わるのだが、一定の知能も存在しているんじゃないだろうか?
簡素に言うのなら、人間かそれと同じレベルの知能は存在していて、集団での意思疏通が成されている可能性がある。
ちゃんと言語の様な物を使って……だ。
即座に襲って来ない所から察するに……この先に罠でも仕掛けているか、根本的に穏やかな存在なのではないかと予測する事が出来る。
私としては後者であって欲しい所ではあるんだが……ここに関しては、実際に起こってみないと分からない部分が多いな。
今の所、トラップの類いがある様には見えないので、敢えて視線には気付かないフリをして、前を進んではいるのだが、
「何が起こるか分かりません。用心して進みましょう」
そうと答えたユニクスの通り、楽観出来る状況ではないな?
「そうだな? 今の所は問題はないみたいだが、何が起こっても大丈夫な様に、今の内から色々と想定する程度の心構えだけはして置こう」
私はユニクスの言葉に頷きを返した。
他方、ミドリさん達も視線には気付いていたらしい模様だが、
「……このまま先に進もう。こっちが何もしないと言う事が分かれば、連中も静かに退散するかも知れない。余計な事をしない方が良いだろう」
こんな台詞を真顔で答えていたローグルさんの言葉に、ミドリさんとコニアさんは素直に従っていた。
どうやら、ローグルさんが三人の中ではパーティー・リーダーの様な立ち位置にあるらしい。
また、素直に頷いていると言う事は、それ相応の実績と言うか、結果があってこその態度だろう。
このダンジョンに入るよりも前から一緒にパーティーを組んでいただろうコニアさんが素直に頷くのは分かるが、どう考えてもこのダンジョンに入ってから以降にパーティーを組んだろうミドリさんまで頷いていると言う事は、このローグルって男は中々に判断力のある人物なのかも知れないな。




