アリン、居なくなる【6】
「そう言うミドリさんも、どうしてこんな所に?」
程無くして、然り気無い口調で質問を返す感じの台詞を言うユニクスがいた。
ナイスだユニクス!
こう言う時は、お前のしたたかさが有り難い!
「……え? まぁ、旅行と言うか……一応の目的はあったんですけどね? ただ、私達はどちらかと言うと、お父さんが何か面白い旅に出そうだったから、ついて来ただけって所です」
なんでそんな理由で、こんな危険なダンジョンの中に潜れるんだ……アンタは。
軽く考える様な仕草を見せて言うミドリさんに、私はちょっとだけツッコミを入れたくなった。
他方のユニクスも、若干引いてる感じの顔に。
そりゃそうだろう。
単なる観光旅行で来る様な所では決してない。
命がけの観光旅行とか、どんだけ旅行に気合いを入れてるんだと。
「俺達は、ダンジョン攻略が目的で、ここに来ているんだけどさ……」
そこからワンテンポ置く形で、私やユニクスへと声を掛けて来る男がいた。
こっちは知らない顔だな?
黒髪黒目で、肌も黒い。
典型的な黒人かと言うと、何となく違う気がするけど、外見だけを見るのであれば、黒人寄りの人って感じだった。
ただ、この世界にも黒人はいて、主に赤道に陸地がある西側大陸で良く見受けられる。
よって、黒人がいる事自体はそこまで珍しくはない。
しかしながら、中央大陸には基本的に黒人種が少ないので、若干の物珍しさはあるかも知れないな。
私のイメージだと、黒人種は基本的に身体能力が高く、筋肉質な戦士を思い浮かべる傾向にあるが……眼前にいた青年は、どちらかと言えばインテリ系だった。
決して筋肉がないと言う訳ではないんだが……全体的に細身で、スレンダーな体躯をしている。
何より顔立ちが何処か理知的で、色々と物を知っている様に見えたのだ。
名前は……。
「俺の名前はローグル。そして、隣に居るのはコニアって言う。このダンジョンには、もう一人ルートって言うヤツと一緒に入ったんだが……どう言う訳か、強制的にワープされた見たいでね……」
……と、本人が述べた通りだ。
ついでに、今の彼らに起こった事も、かいつまんで話してくれた。
なるほど……ワープねぇ。
普通に考えれば信じられない事だし、元来であるのなら半信半疑になってしまいそうな内容ではあったんだが、私は当然の様にその話を信用した。
理由は簡素な物だ。
私のアリンも、似た様な理屈で居なくなってしまったからだ!
「ワープ……と言うと?」
「このエリア……つまり、四層目に向かおうとした時……突発的に回りのメンバーが消えたんだ」
答えたローグルは、かなり真剣だった。
聞いている限りでは、全く信用出来ない内容ではる。
ハッキリ言うのなら『そんな訳があるか』と笑い飛ばしてやりたい。
しかし、そうであるのなら合点が行く事も確かであった。
私とアリンが強制的に分離してしまったのは、強制ワープの様な物が発動したからだ。
一体、誰が、何のためにこんな事をしたのか?
それは私も分からないし……ローグルにも分からないだろう。
ローグルにしても、こんな事になるだ何て、夢にも思っていなさそうな顔をしているからな?
だが、反面で分かった事がある。
私とアリンは、たまたま寝ている時に強制ワープが発動していたと言う事だ。
ここに関しては分からない事が多いのだが……恐らく、この強制ワープにはある程度のランダム性が存在しているんじゃないかと思われる。
一律で、一定エリアにやって来ると、必ず発動する物ではなく、一定エリア内に存在していると強制ワープがランダムで発生するんじゃないかと予測される。
一定エリアの範囲についても、正確な所までは不明ではあるが……恐らく、この四層目エリア全域ではなかろうか?
もしそうであるのなら、このランダムで発生するワープ現象は、今後もランダムで突発的に発動する可能性がある。
うぅむ……。
すると、ようやくアリンと再会出来たとしても……再会して間もなくランダムワープが発生して、またもやアリンと引き剥がされる可能性もあるのか。
なんて恐ろしいワープ現象なんだろう。
ただ、もしこの仮定が当たっているのであれば、何の脈絡もなくアリンの元へとランダムにワープしてしまう可能性もある。
私としては、そうなってくれれば有り難い話ではあるんだけど……そう都合良くワープしてくれるのかと言うのなら……まぁ、そうはならないよなぁ……。
私は、内心でのみ、ランダムワープが今すぐに発動して、アリンの元へと連れて行ってくれないかなぁ……なんぞと考えたりもする。
だが、やっぱり都合良くワープする事はなく……自力でアリンを探す事になって行くのだが、余談程度にして置こう。




