アリン、居なくなる【4】
私からアリンを奪ったエリアボスに、途方もない憎悪を胸中でぶつけつつ……道なき道を進む事、約一時間。
ひたすらに、木々の合間を進むと言う……まるで山菜取りにでも来たんじゃないかと言う様なサバイバル・テイストな道程を進んで行くと、
「これは……湖でしょうか?」
少し歩き疲れたのか? やや疲れ顔になっていたユニクスが私へと答えた。
その先には、ユニクスが述べた通り……湖畔の類いが視界に広がる。
湖と表現したが、大きさ的に言うのならそこまで大きい訳ではない。
ただ、池と表現するには些か大きいかな……と言う程度だ。
パッと見た感じは二~三キロ程度の大きさがある、巨大池……と形容しても、そこまでおかしな代物でもなかった。
どちらにせよ、池にしては大きく……湖にしては小さいと言う、なんとも中途半端な水没地帯を目の当たりにしていた……その時だった。
ザッパァァァァァンッッッ!
物凄い水飛沫の音が、私とユニクスの二人の耳に転がって来た。
……なんだ?
「……リダ様、他のパーティーらしき人物が、このエリアに居るモンスターと交戦中の模様です」
頭の上にハテナを浮かべていた私へと、逸早く現状を察知したユニクスが、冷静に今起こった出来事を口にする。
厳密に言うと、それは現在進行形も兼ねての報告であった。
「……なぬ?」
ユニクスの言葉を聞いて、私は少しばかり意外そうな顔になってしまう。
百年迷宮と呼ばれているこのダンジョンの難易度は、世界屈指と述べて差し支えない。
今回は、みかんとういういさんと言う反則的な冒険者が一緒に居てくれた事もあって、そこまで苦労する事なくダンジョンの中層辺りまでサクサクやって来ているのだが……実際には、もっと色々と時間と労力を消費して、この階層までやって来る筈なのだ。
前回、このダンジョンが解放された時は、完全攻略までに十年もの月日が掛かったと言う。
そうだと言うのに、今回に限って言うのであれば、解放されてわずか二日目にして、早くも中層付近まで冒険者が攻略をはじめているのだ。
かつての冒険者にどの様な猛者がいたのかは知らないが……このダンジョンが作られて史上、最速の攻略スピードなのではないだろうか?
簡素に言うのであれば、史上最速の早さでこのエリアまでやって来ている……そう思っていたが故に、私は驚いてしまった。
「他のパーティーにも、物凄い攻略速度でこの階層までやって来た冒険者が居たんだな……」
「どうやら、そうなりそうですね」
驚き加減の声音で言う私に、ユニクスは軽く相づちを打ってみせた。
やはり世の中は広いと言う事か。
何処の誰かは知らないが……きっと、名の知れた精鋭パーティーなんだろうなぁ。
どんな相手と戦っているのかは知らないが、私はモンスターと戦っている途中のパーティーが負けるとは思ってなかった。
何でかって?
そりゃ、そうだろう?
これだけ短期間でこんな所まで来れるパーティーなんだ。
実力は超一流か、レジェンド・クラスだぞ?
よって、驚きこそしたが、慌てる事もない。
ただ、少し興味はある。
実力的に言うのなら、私達パーティーにも匹敵するだけの実力者だけで結成されたパーティーであるのなら、そのパーティーにはどんな強者がいると言うのか?
せめて、顔だけでも拝んで置いて損はないかな?
こんな事を考えていた頃、
「……リダ様、少し戦況が怪しいのですが……どうなさいましょう?」
ユニクスが少し心配する形で私へと答える。
……いやいや、待ってくれよユニクス?
「流石にそんな事はないだろう? お前……ちょっと、戦況把握が甘くなったんじゃないのか?」
私は軽い口調で答えつつ、派手に色々とやっている感じの場所へと歩きながらも、目を向けた。
戦況は…………う、うむ。
確かに、贔屓目に見ても、モンスターが有利に見えるな。
どうせ、歴戦覇者で結成されている冒険者達が余裕でモンスターを蹴散らすだろう……程度の考えしかなかった私が、ここに来てユニクスの言わんとする意味を理解した。
さっきまでの私は、余裕で勝つと言う先入観から、冒険者とモンスターが戦っている状況をしっかり見る事をしなかった。
それが、大きな油断であり……大きな勘違いであった。
「……どうなってるんだ?」
私は思わず謎と言うばかりの声音を吐き出してしまった。
だって、そうだろう?
これだけの速度で四層目のエリアまでやって来たと言うのに……私が予測していた実力の半分程度しか出せていない感じなんだ。
……まぁ、一人だけずば抜けて能力の高いヤツがいるけど、そこを入れても……ねぇ?
「本当に、どうやってここまで来たんだ? あの連中……?」
答え……私は、思わず腕組してしまった。




