アリン、居なくなる【3】
仮にみかんと一緒の状態であるのなら、私としても安心ではある。
普段はただの天然ボケ……いや、計算して意図的にボケているから、天然と言うよりも養殖のボケを展開している感じのみかんではあるが、ヤツ程頼りになる存在も居ない。
どんなモンスターがやって来たとしても、アリンに指一本触れさせる様な事はしないと思うし、知略や策略に秀でた悪魔の様な存在がいたとしても、それらを全て覆す程度の狡猾さは持っている。
冷静かつ多角面に考えれば、私が近くに居るよりもアリンの安全を約束していると見ても良いだろう。
しかしながら、確実にそうであるとも限らない。
これは、私の中に存在する予測の一つでしかなく……飽くまでも、はぐれる前のパーティーにはみかんが居たから、みかんと一緒にアリンも居るかも知れないと言う、予測に過ぎないのだ。
理由は不明だが、パーティーが散会したとして……離散したパーティーが、必ずしも二つに分離したとは限らない。
ともすれば二つではなく、三つ……またはそれ以上の分離の仕方をしている可能性がある。
仮にそうであった場合は……最悪だ。
最も最悪なパターンは、アリンだけ一人取り残されてしまった場合だ。
もしそうであれば……アリンは、この広い広い樹海の様な所に一人で、ポツンと放り出されたかの様になっている事となる。
アリンは……多少、人とは違う部分があるけど……中身は普通の三歳児なのだ。
世の中の常識すらまともに知る機会がなかった三歳児が、こんな方角すら麻痺しそうな樹海の奥地に一人にされたら……生きて行く事すら難しい。
それ以前に……誰も居なくなった事で、酷く激しく葛藤しているだろう!
ああ……やっぱり心配だ。
お腹空いてないだろうか?
寂しくはないだろうか?
ズル賢いモンスターに騙されていないだろうか?
「…………」
考えれば考える程、深みにハマって行く私。
いつしか、瞳にはじんわりと涙が溜まっていた。
……はは。
こんな事をした所で、アリンが助かるって訳じゃないのにな。
「私には分かりません……確かに分かりません……しかし、信じる事は出来ます」
陰鬱の表情になっていた私に、そこでユニクスの声が転がって来た。
みれば、ユニクスはいつになく真剣な顔になっていた。
その上で私へと答えて行く。
「アリンは強い子です。ちょっとやそっとの事では死ぬ所か、ピンピンしている様な……それだけ頑強で強い子です。今はアリンの中にある強さを信じましょう」
…………。
ユニクスの言葉に、私は何も言えなくなってしまった。
同時に思った。
そうだな……こんな時こそ、母親らしく娘の強さを信じる必要があったんだよな!
よし……。
今は信じよう。
アリンは強くたくましく生き抜いていると!
「ありがとう……ユニクス。お陰で、私も気を強く持つ事が出来そうだ」
私は笑みでユニクスへとお礼を口にした。
……そうだ。
こんな所で悪い予測なんかしている暇などない。
心配が悲嘆に変わり……良くない予測が次々と雪崩の様に思考の中へとやって来たが……そんな下らない事を考えている暇があるのなら、今は行動に移した方が建設的だ。
ともかく、前に進もう!
思った私は、今までよりも強く早く前に進んだ。
余談だが、空路はNGだった。
どう言う理屈なのか知らないのだが……滑空魔法などで空を飛んでも、強制的に飛んだ地点へと戻されてしまうらしく……自分でも無意識の内に入り口付近をグルグルと飛び回るだけに終わってしまった。
良くは分からないが、空を飛ぶと言う行為その物を無効にしてしまう、不思議な効力が発揮している事だけは理解する事が出来た。
他方、普通に走る分には大きな制約が課される事もなく……様は、陸路での移動は何の問題も発生しない模様だ。
結果、私とユニクスの二人は歩いて先に進むと言う行動を取っている訳となる。
正直に言うのなら、アリンの安否を一秒でも知りたい私としては、サッサと空を飛んでアリンの元へと向かいたい気持ちで一杯だったりもするんだけど……残念ながら、ダンジョン内に存在しているんだろう不可思議な力によって空路を事実上の不可にさせられていた。
本当に、誰がこんな事をしてくれたんだろうなぁ……?
ここのエリアボス辺りだろうか?
もし、犯人がこのエリアのボスだった時には、問答無用で泣かしてやろう!
爆破の一回や二回で済むと思うなっ!?
私の怒りを表現するのは、超炎熱爆破魔法だけではないと言う所を、しっかり見せてやるんだからなっ!?




