アリン、居なくなる【2】
その後、私は再び周囲をくまなく探したが……しかし、アリンの姿を見付ける事はなく……途方に暮れる事しか他に選択肢はなかった。
○■◎■○
何がどうなっているのか?
「うぅ……アリン……アリン……」
私は愛娘の名前を、まるで呪文でも唱える様な勢いで呟き……トボトボと前を歩いていた。
その隣にいたユニクスも少しだけ私に気遣いを見せる様な形で浮かない顔を作りつつも声を返していた。
「しっかりして下さい、リダ様。あのアリンが早々、怪我を負う様な事など考えられません。きっと、アリンはこのエリアの何処かでしっかり元気にしていますよ」
「……どうして、お前にそれが分かる? お前はエスパーか? もしかしたら、お腹が空いて泣いているかも知れないんだぞ? か~たまが居ないっ! って泣いてるかも知れないんだぞっ!?」
私をフォローする形で答えたユニクスに向かって、私は眉を釣り上げながら叫び……そして、気付く。
ユニクスだって心配しているんだと言う事実に。
別にユニクスが自分の口で言っている訳ではない。
しかし、口にこそ出さないが、そこかしこに心配している事だけは、私の目でも見て取る事が出来た。
何より、心配して居なかったのであれば、ユニクスの態度も大きく変わっていたに違いない。
例えば……そう、アリンが居ない今がリダ様と色々な事を楽しめるチャンス!……とかって感じの、寝言にも等しい事を考えたとしても、なんらおかしな状態ではなかった。
しかし、そんな素振りを欠片でも見せていない。
そこから考えても、ユニクスが本気でアリンの事を心配していると言う事が、私の目からも感じ取る事が出来たのだ。
……まぁ、内心ではどう思っているのかまでは分からないのだが。
…………。
いや、そこまでユニクスを疑ってはいけない。
確かにユニクスは、悪魔から人間へと転生すると言う過去を持っていたりもするが、今はれっきとした人間であり、天啓を受けた勇者でもある。
勇者らしい事なんて、私が知る限りで一つもないけど……一応、これから色々と勇者らしい事をするかも知れないと言う意味で、人間としての人徳と言う物はちゃんと存在していると思いたい。
それでも、やっぱり疑いの余地があるんじゃないかなぁ……と言う、ヘソ曲がりな思考も否めないのが何とも悲しい所ではあるんだけど、ユニクスを信じるべきだと私は考えていた。
……故に思ったのだ。
「気を確かにお持ち下さいリダ様……あなたが動揺してどうするのですか? 今は、オロオロと困惑するのではなく、まずはアリンが何処にいるのかをしっかりと冷静に考える事が先決です。どんな事でも平常心を失ってしまえば、罷り通る事すら通らなくなってしまうのが世の常です。まずは落ち着いて、色々と考えてみましょう」
そうと、真剣な眼差しで答えたユニクスの言葉に嘘はない……と。
「……そうだな……取り乱してすまない」
「いえ、良いのです……私もリダ様の心中をお察しします……目に入れても痛くないまでに可愛がってがっていた愛娘が突如として居なくなってしまったのなら、心が乱れてしまったとしても、誰も責める事なんて出来ません。そして、私も心を痛めております。アリンは私にとっても未来の娘になる予定の子ですから」
幾ばくかではあったが、落ち着きを取り戻した私に、ユニクスは柔和な笑みを向けて私へと答えた。
「そうだな……アリンは未来の娘……いや、未来永劫そんな事にはならないとは思うが、大切な仲間として見てくれた事に関しては礼を言おうか」
「いえ、お礼には及びません……実際に未来の娘になる事は、天地神明の頃より決められた運命だと思っておりますから」
「残念ながら、そんな運命はないと思うが……しかし、冷静にならなければ行けないと言う所だけは、間違い無さそうだ」
「あの……ですから、そこもちゃんと理解して頂きた……あ、うん! はい! そ、そうですね! まずは、アリンの捜索を念頭に置いた行動を取りましょうか!」
どうしても、自分の娘にしたがるユニクスに右手を向けた所で、ようやく現実に戻れたユニクスは、口早に答えてから周囲を見回す形で歩き始めた。
最初から素直にそう言えば良い物を。
……以後は、主にアリンを探す為に周囲を歩き始めた。
恐らく……ここに関して言うのなら、確かめる方法がないのでなんとも言えないのだが、アリンはみかん達と一緒にいるのではないかと予測している。
どう言う理屈で、みかん達パーティーとはぐれてしまったのか? ハッキリ言って謎でしかない現状には、私も小首を傾げる事しか出来ないのだが……仮に、寝ている間にパーティーが分離してしまったとするのなら、みかん達と一緒にいると考えるのが、より自然の流れだと思ったのだ。




