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アリン、居なくなる【1】

 水の階層を越えた私達は、四番目となる階層へとやって来た。


 例によって階層と階層とを繋ぐなだらかなスロープみたいな所を通ってやって来た所は、何処まで続いているのか良く分からないまでに草木が生い茂っている、広大な森のエリアだった。


 ……うむ。


 何処まで行っても木だ。

 一言で言うのなら樹海だな。


 ここでは方位磁石の類いがあっても何の効力も発揮しないだろう。

 まさに迷いの森……と言った所だろうか?


 軽く周囲を見渡しながら、自分なりの感想を胸中でのみ呟いていた頃、


「うん、ここら辺で良いかも知れないです。良し、いよかん! テント張りと食事の準備は任せた!」


「私がやるのっ!? しかも全部っ!?」


 何やら、みかんといよかんさんの二人が口論と言う名のコントをやり始めていた。

 

 冷静に傍目で聞いている限りでは、みかんが一方的に理不尽な事を言っていて、その言葉にいよかんさんが反論する感じの内容だったのだが、雰囲気が特有と言うか……そこまで角々しい空気は出来上がっていないんだよな?


 だからと言うのも変な話なのだが、口論風味のコントでも始めるんじゃないのか? なんて、嘯いた感想が私の中にあったりもするのだ。


「にしゃ(お前)は、こねだの(こないだの)将棋で五連敗したべ? ほで、キャンプの準備を賭けて勝負をしてたべ? 向こう五日間はいよかんが準備するって約束だったべ? ほら、わかんね事あったらみかんもおせっから(教えるから)、さっさと準備すっつぉ!(するぞ!)」


「……やらっちゃ(やられた)。まさか本気だったなんて……」


 良くは分からないけど、私がみかんといよかんさんの二人とこのダンジョンで最初に出会った時、どう言う訳か将棋をしていた時があったんだが……多分、そこらの関係でこんな事になっている模様だ。

 本当に事情とか知らないが……まぁ、これはこれでヨシとしておこうか。 


 それに、私としてもこの辺でテントを張ると言うのは渡りに船だ。


 ウチの三歳児は、結構前から疲れて夢の中にいるし、ユニクスもうっすらと疲労の顔が見受けられる。

 本人は『まだやれます!』と言う感じの台詞を、それはそれはもう! かなり気迫を込めて言いそうな気がするけど、無理をしての台詞だと思えてならない。


 人間、休息も大事だ。

 ここはしっかりと休んで置く必要があるだろう。


 思った私は、テントを張ろうとしていたいよかんさんの手伝いに回る事にした。


「え? 一緒にやってくれるんですかっ! マ、マジッスかっ! リダ先輩っ!?」


 テント張りを手伝おうとしたら、何故かいよかんさんの先輩になっていたけど、余談だ。


 きっといよかんさんなりのジョークなんだろう。

 ジョークの言い回しが、そこかしこにみかん風味だったのは、みかんの孫だからなんだろうか?


 どちらにせよ……こうして私は、鬱蒼と生い茂る木々の合間にあった部分で一泊する形を取る事になって行くのだった。


 ……そして翌日。


「……朝か?」

 

 目が覚めて間もなく……私は幾ばくかの違和感を抱く。

 テントの中で眠っていた筈だと言うのに、いつの間にか外で寝ていたからだ。


 みかんから借りた寝袋はそのままに、何故か一人で寝ていた私…………ん? 一人?


 いや、待て? アリンはっ!?


 ハタッ! っと気付いた私は、物凄い勢いで寝袋の中から起き上がった。


 そして、気付く。

 周囲にはテントはおろか、キャンプの跡すらなくなっていた事に!


 しかも、そこにはユニクスだけしか居なかったと言う事実に!


 いやいやいやっ!

 ちょっと待て! 

 こ、これは……一体、どう言う事なんだっ!?


 寝袋から起きて間もなく、私はおもむろ狼狽うろたえながらもアリンを探す。


「アリン! アリンッ! 何処だぁぁぁっっ!?」


 遮二無二騒ぎ立てる形で喚き声を放つ私がいた所で、ユニクスがゆっくりを瞳を開けてから声を出して来た。


「……どうしたんですか、リダ様? あ、おはようございます」


「おはよう、ユニクス! アリンを知らないかっ!?」


「アリンですか? アリンはリダ様と一緒に寝てませんでしたか? 本当は私が近くで一緒にしっぽりと寝ていたかったと言うのに……あ、ちょっとリダ様? いきなり右手は心臓に悪過ぎですから? いや、本当にそれはやめてくれませんかねぇっ!?」


 どうやら、ユニクスも知らない模様だ。

 実際問題、アリンはユニクスが答えた様に、私の隣で子供用の寝袋にくるまる形で寝ていたのだ。


 用意周到なみかんは、アリンのサイズにもピッタリな寝袋を用意してくれて、それで私の隣で寝ていた筈なのだが……。


「これは……どう言う事なんだ……?」


 ハッキリ言って、全くの意味不明な状態になっていた。

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