嘘つきは、エリアボスの始まり【14】
そんな……絵的には緊迫していると言うのに、何処かグダグダな空気も含まれていた中、ホーンドは下品極まる笑みを未だ保持していた状態でみかんに声を返して来た。
「くっくっくっ……本当に、こう言う所だけは無駄に頭の回るヤツらだ……そうさ! あのふざけた立て看板に気付いた俺が、水の部分に墨を入れてやった。誰が立てたのか知らないが……余計な事をしてくれた物だ……あんな物をバカ正直に暴露されたんじゃ、こっちの楽しみが無くなる……お前らの様な間抜けな冒険者達を騙してなぶり殺す楽しみが……なぁ?」
「なるほど……それが貴方の本性ですか。最初からそうではありましたが……つくづく紳士と言う者から大きく反した存在なんですねぇ~。まぁ、ホーンド自体が人間にとって余り友好的な存在ではないと言うか、良く騙されると言うか……ともかく、貴方みたいなのは人間からすれば迷惑以外の何物でもないでしょうねぇ」
「……そうだとしたら、どうするつもりだ?」
「こ~するです」
軽く小バカにする様な勢いで言うホーンドに対し、みかんは右手をホーンドに向けた。
刹那、
ドォォォォォォォンッッッッッ!
ホーンドは物凄い勢いで爆発した。
凄まじい爆発だった。
あたかも私の得意な魔法、超炎熱爆破魔法に匹敵する超爆発だった。
尤も、発動したのがみかんであるなら、私は全く驚かない。
そもそも、超炎熱爆破魔法だって、みかんから教えて貰った魔法でもある。
言うなれば、私が使っている超炎熱爆破魔法のルーツはみかんにあったのだから。
「……なっ!? はぐわぁっ!?」
流石に爆破されるとは思っていなかったホーンドは、爆発の瞬間に目を大きく見開き、防御も出来ない状態のままみかんの放った大爆発をそのままモロに食らっていた。
この一撃によって、身体の一部が吹き飛んでしまった。
見事なスプラッタ状態になっていたホーンド。
これは……なんともシュールな姿になってしまった感じがする。
しっかり細部まで述べたら、それだけでグロいと言われてしまう様な状態になってるなぁ……。
けれど、こんな状態になっても死ぬ所か意識があるのだから、ある意味でモンスターしていると述べても過言ではない。
いや、ホーンドであるのなら、実際にモンスターと表現してもおかしなくない存在だったか。
どちらにせよ、瀕死状態にはなっているだろうホーンドは、徐に狼狽えた顔をしてから叫ぶ。
「き、貴様……どうして、その技をっ!?」
心から信じられないと言わんばかりだ。
他方の私は、大体の検討が付いていた。
「この水に入る少し前……シズ1000と言う有能な魔導人形が、この水の水質検査をしっかりとやってくれていたのです。ご丁寧な事にも水質調査報告書と、バカにも分かる水質調査報告書の二枚を用意して来たのですよ~」
そして、私なりの予測とみかんの答えが見事に合致した。
……やっぱりそうなるのな?
冷静に考えると、やっぱり何処かコミカルな話になってしまいガチではあるんだが、シズ1000が作成した水質調査報告書の内容には確かに書かれていたのだ。
この水には爆発する成分が含まれている……と。
「頭が良いみかんさんにとって、水質調査報告書は普通のヤツだけで十分に理解する事が出来ましたが、実に不可解かつ謎めいた性質に、少し驚かされてはいたのです。見た感じだと、こんな成分を入れる必要はないし、大気同然の不思議な水と言う時点で、なんらかの意図的な魔法が掛けられている事は簡単に予測する事は出来ました。ここから考えても爆発する成分も意図的な部分だと予測する事が出来たのです」
つらつらと抑揚のない声音で、淡々と説明して行くみかん。
然り気無く、自分の事を利口だとかほざいていた気がするが、そこはともかくとして。
みかんの説明は更に続いた。
「それでは? 意図的な理由で爆発する様な危険因子を入れる必要は何処にあったと言うのか? 蓋を開ければ、答えは実にシンプルな物でした。貴方のエゴで始めた下らない罰ゲームです……いや、今回は罰ゲームでしたけど、理由なんかどうでも良かったのでしょう? 水の中の至る所にまんべんなく爆破成分を入れていた所を察するに、最終的には水の中に入って来た者を適当な理由をでっち上げて爆死させるつもりだった訳で~?」
みかんはここまで答えると『……はぁ』と、重々しい吐息を吐き捨てる様に出した後、呆れとも落胆とも表現出来る様な表情を作る。
「貴方はちょっとばかりオイタが過ぎました。ここまで明け透けなく露骨に理不尽な事をされたんであれば……みかんさんだって、明け透けなく露骨に理不尽な事をしても良いと思えたんですよねぇ~?」
答え、みかんはニィ……と含み笑いをみせた。




