嘘つきは、エリアボスの始まり【11】
「……はぁっ!?」
私の言葉に、コメディアンは思い切り面食らった顔になっていた。
ヤツからすれば、間違いなくそう言うと思っていたよ。
そして、こちら側からすれば『確認する方法のない事』でもある以上、コイツは幾らでも取り繕う事が出来る。
そこにどんな虚構が存在し、どの様な真実が隠されていようとも、だ。
だが、私は知っている。
いや、厳密に言うと私は確信した。
みかんの友達でもあるレイスが、疲れ切った顔になって帰って来たのを見て。
これだけであるのなら、何故か疲れた状態にあるレイスが謎の態度を取っている……と言うだけで終わる。
そもそも、レイスの癖にどうして疲弊するんだよ? と、微妙にツッコミを入れてやりたくなる様な光景ではあったんだが……しかし、ポイントはそこではない。
何処からともなくやって来たレイスが、みかんに向かってぼやきにも似た口調で話していたからだ。
その一部始終を、私は然り気無く耳に入れていた。
他方、コメディアンはユニクスとのゲームとやらで夢中になっており、みかんとレイスの密談に気付く事が出来なかった模様だ。
元から意識がユニクスの方に向いていたのだが……更にみかんはみんなの影に隠れる形で目立たない場所へと移動し、レイスとヒソヒソ話をする形で会話をしていたのだ。
当然、こんな状態では会話の内容を理解する事は出来ないだろう。
しかし、私には理解する事が出来る。
オートスキルの様な物を会得していた私は、遠くの声を正確に聞き分ける能力を持っていたりもする。
結構前にも一度説明したかも知れないが……まぁ、かなり前だったので覚えていない方も多いだろうから、ここでも軽く説明して置こう。
意識的に数百メートル離れた一定の声だけを意図的に区分けしてキャッチするスキル……こんなのがある。
特に覚えるつもりはなかったのだが、成り行きで覚えていたオートスキルの一種で、特に意識せずとも勝手に発動するスキルでもある。
このスキルを保持している私は、その気になればガヤガヤした室内にいる一人の人間の声だけを正確に聞き取る事が出来たりもした。
地獄耳ならぬ会長の耳って所だろうか?
素直に言うと、このスキルの恩恵とか、そこまであったりする物でもないのだが……今の様にごく限られたシチュエーションでは抜群の実用性を発揮するスキルでもあるのだ。
……そう。
今回の、この場面だけに限って言うのであれば、とてつもなく有効でもあった。
理由は実に簡素な物だ。
コイツにアッサリと嘘を吐かせる事が出来るからな?
……尤も、このチンパンジーにも匹敵する知能指数であるのなら、わざわざこんな引っ掛け染みた設問でなかったとしても、アッサリと嘘を並べて来る様な気もするんだが。
なんにせよ、だ?
「何だ? お前の耳はイカれているのか? もう一度言ってやる。お前の言ってる事は完全なるダウト……あるいは、ライアーとでも言い替えるか? どちらにせよ嘘だな?」
「そ、それは、何を根拠に言ってるのかな? ちゃんとした証拠と言う物を出すべきだ! この私の様に存在その物が根拠になり得る、真実の塊の様な存在でもない限りは一定の根拠を元に物を言うべきだ!」
その理屈だと、お前の言う事が全部真実になってしまうではないか。
例えそれが真っ赤な嘘であったとしても……さ?
もはや公平も不公平もなく、自分が正義だと言い出して来たコメディアンに、私は喜劇もここまで来ると笑えないと、胸中でのみ嘆息してみせる。
みかんの言葉がやって来たのは、そこから間もなくの事であった。
「根拠ならありますよ~?」
答えたみかんの隣には、みかんの友達らしいレイスが浮いていた。
「このレイス君一号が証人です」
「……何故そうなるんだい?」
紹介する感じでレイスへと手を向けてから答えたみかんに、コメディアンは大仰なばかりに『言ってる意味が分かりませんねぇ?』って感じのジェスチャーをして見せた。
私の視点からするのなら、完全にしらを切っている様にしか見えないが……確かに、レイスの証言だけと言う条件は、根拠としてパンチ力に欠ける。
何故なら、それは互いに『そう言っている』と言い合ってるだけに過ぎないからだ。
コメディアンの言ってる事が正しいと証言している事に対し……悪霊の言葉を『信じなさい』と言って来ているのが、現状の構図でもある。
客観的に考えるのであれば、それはかなり無理がある図と言えるだろう。
これが世間一般であったとしても、やっぱり同じ様な事が言える。
多少おかしな頭をしていたとしても、コメディアンの言っている事と、呼ばれもしないのにいつの間にかわいて来た悪霊の言葉であるのなら、普通はコメディアンの言葉を信じるてしまうだろう。
だって、悪霊だしさ……。




