嘘つきは、エリアボスの始まり【9】
純粋に、単純に私を敬愛してくれた上でそう言ってくれたのであれば嬉しくもあり……複雑な気持ちにもなったろうユニクスの発言。
なんて言うか、アリンも大事だけど、最終的に私を選ぶと言う事は……もし本当に私かアリンのどちらかを選ばないといけない状態に陥った時は、アリンを見捨てて私を助けると言う意味に繋がる。
私の意思を汲み取ってくれるのであれば、私なんか全然無視してくれて構わないから、アリンを真っ先に助けて欲しい。
親心かも知れないけど、もう既に私はある程度の事までは目的を成し遂げたと思っている。
他方のアリンは、人生これからなんだ。
生まれて来て、本当に少しの時間しか経過しておらず、夢や希望だってこれから描いて行こうとしている子供なのだ。
それら諸々を考えるのであれば、私よりもアリンを優先的に救って欲しい。
はは……我ながら少し臭い台詞ではあったが、これが私なりの正直な本音だな。
……と、こんな事を考えていた時、コメディアンはニィ……と、妖艶な笑みを作ってから答えた。
「その答えはダウトだね……残念だよ」
……は?
私は思わずポカンとなってしまう。
いや、間違いなく今のはユニクスなりに答えた真意だったろう?
「何故だっ!? 私は誠心誠意、心からの台詞をしっかりと口にしたではないかっ!」
ユニクスも唖然とした状態で不本意極まる声を言い放つ。
全く以てごもっともな言い分と言えた。
「誠心誠意と言う部分は認めよう……しかし、その台詞にはしっかりとした真実が含まれていない……君はこう答えるべきだったんだよ『この二人を比較する事は出来ない……よって、私はどちらも選べない』……とね?」
自称紳士は、答えてから間もなく品のない笑みを色濃く作ってみせた。
最初からそうだったかも知れないけど、紳士はそんな下品な笑みなんか絶対に見せないと思うぞ?
ついでに言うと、コメディアンの答えた模範解答もまたつむじ曲がり極まっていた。
確かにコイツは『正直に答えろ』としか言っていない。
だからして、質問に対し『必ずどちらかを選ばない行けない』とは言ってない。
よって、どちらも選べないと言うのが、ユニクスの中にある本音だろう? と主張している。
……実際の所、この主張も間違いではないのかも知れないが……それなら、最初から『どちらも選べないと言う選択も可』と付け加えるべきではないのだろうか?
私としては、設問内容と答えが悪い。
……いや、違うかな?
恐らく、このコメディアンは、そうなると知っていてわざとこんな質問をユニクスに投げ掛けたのだろう。
誠実な紳士が聞いて呆れるのだが?
「……なっ!? き、汚いぞっ!?」
結果的に、コメディアンの罠にまんまと引っ掛かってしまったユニクスは、呆然とした面持ちのままひたすら叫んでみせる。
しかし、だからと言って何かが変わると言う事はなかった。
「その台詞は心外だねぇ?……ふふ、私は最初から言っていたよ?『誠実かつ正直に物を言ってくれ』と。選べとは言ったかも知れないけど、だからと言って『選べないと言う台詞を言ってはいけない』とも言ってなかった。飽くまでも『正直に言え』としか言ってないよね? つまり、そう言う事だよ……ふふ」
屁理屈もここまで来ると清々しいと言える内容を、当たり前の様に語ったコメディアンは、スゥ……っと右手をユニクスの前に向けた。
……っ!? そ、その構えは……っ!?
ドォォォォォンッッッ!
次の瞬間、ユニクスは盛大に爆発した。
「はぐわぁっっ!」
脈絡なく……いや、構えからして爆発系の魔法を発動する時の態度を示していた為、一応の予備動作の様な物はあったんだが……どちらにせよ、躊躇なくユニクスを爆破していたコメディアン。
その姿は実に血も涙もない行為ではあったんだが……なんだろう? いつものユニクスと言うか、普段ある日常のユニクスとダブって見えるのは気のせいだろうか?
うぅ~むぅ~。
良く考えたら、ユニクスは事ある度に良く爆発している残念な女だった。
そう考えるのであれば、この程度の爆発ならユニクスの身体に問題が発生する事はないだろう。
「ユニクス!」
他方、ういういさんは爆発したユニクスへと素早く駆け寄ってみせる。
まぁ……普通に考えればそうなるんだよな?
結構な爆発だったし……常識の上で行くのなら心配しない方がおかしい。
だから即座にユニクスの安否を確認しに行ってのだろうし、倒れたユニクスを素早く介抱する感じの態度を取っていたりもする。
反面、表情は何やら微妙な顔になっていた。
私はういういさんの心情を読み取る様な能力はないので、正確な事は知らないが、地味に呆れている事だけは分かる。
大方『言わんこっちゃない』的な事を考えているんじゃないだろうか?
結局は、今回もしっかりとフラグ回収をしていただけに過ぎないのだから。




