嘘つきは、エリアボスの始まり【8】
「……懲りないヤツだな……」
あ、ういういさんも心底呆れてるよ。
どんな物でも金の事しか考えられない物欲の権化にすら、心底呆れられてるよ。
ユニクス……お前は、一体……何がしたいと言うんだ?
「ふふ……それじゃあ、ゲームを開始しようか?」
ユニクスが巨大水晶に向かった事で、自称紳士の青年が特有のナルシストな微笑みを作り出しながら、緩やかな声音で言って来た。
「先程も説明したけど……ルールは至ってシンプル。私の質問に『誠実かつ正直に』答えてくれれば良いだけ。ふふ、簡単だろう? それでは、質問1だ? 君には最愛とも言える人物が一人いる。その人の為であるのなら、全てを厭わない……間違いないね?」
「当然だ! 私はリダ様の為に生き、そして死ぬ!」
ぞわわわわぁぁぁぁっっ!……と、背筋に悪寒が走った。
まるで、毛虫が這いつくばった様な悪寒が、背中を縦横無尽に激走しまくっている様な不快により、私の精神に強烈なダメージが生じていた。
胸張って堂々と叫ぶんじゃないよっ!
気持ち悪いじゃないかっ!
私の中で、強烈な悪感情と言う名のヘイトがグングンと膨れ上がって行く。
もしかして、こんなふざけた質問しかされないとか……ないよな?
そうであるのなら、ゲームとか関係なく、即座に貴様を超炎熱爆破魔法で爆破してやりたいんだが?
「ふふ……素晴らしいね?」
いや、待て? 今の何処に素晴らしさがあったんだ?
「最高だよ!」
だから、何処にそんな物があったと言うんだよっっ!?
私の顔が青ざめ、背筋が凍っている中、コメディアンテイストの自称紳士が、悠々と笑みを作りながらもふざけた台詞を吐き出していた。
もはや、この時点でコイツを爆破したくて仕方がないんだが?
「実に誠実かつ素直で、正直過ぎる答えだ」
まぁな? 確かにゲーム的にはそうだろうよ?
ただ、私の感覚で行くのであれば、枕詞に罰が付くんだけどなっ!?
一応、ルールと言うか……芸人風味の自称紳士が述べた内容に忠実な台詞を述べていたユニクス。
そう言うルールだと思えば、これはこれでしょうがない部分もあるんだけど……心情的は、勘弁でして欲しいと言いたい所だった。
「……では、質問2。それでは、愛すべき最愛の人間には娘がいる。その娘の為に死ねるかい?」
「ここは愚問だな。確かに多少の口喧嘩や意思の疎通が出来ずに不和へと陥る時も間々あるが、誠実かつ正直に答えるとするルールであるのなら、私は当然、愛すると言う台詞を高らかに公言しようじゃないか!」
芸人青年への問い掛けに、ユニクスは威風堂々とした態度で声を返す。
……ふむ。
まぁ、ここは良い。
むしろ、ここは信じていた。
なんだかんだあったけど、それでも尚、私はユニクスがアリンの事をちゃんと好きでいてくれている……そう考えていた。
もちろん、性的な意味ではなく、だぞ?
もし、性的な意味だったら、全力で阻止するけどな!
「君は本当に正直に物を言える誠実な人間だね……私としても、頭が上がらないよ……では、最後の質問だ。これをクリアすれば君を下の階層へと導く事を約束しようじゃないか」
自称紳士は、顔でも素晴らしいと言うばかりの微笑みを作りながら答えて行く。
ただ、今の所は口約通りの範疇内でゲームが進んでいる模様だ。
微妙にわだかまりが出来る部分がそこかしこに見られてはいる物の……こんな事は今更だ。
このままであるのなら、私も良しとするべきかな?
「それでは最後の質問だ。君にとってこの二人はとても大切かつ、掛け代えのない特別な存在だ……愛すべき存在だね? なら、この二人のどちらかを助けるとするのなら、君はどちらを選ぶ?」
「……っ!?」
コメディアンの尋ねて来た質問に、ユニクスは大きく狼狽してみせた。
ユニクスにとって、かなり痛い所を突かれた設問と言えるのだろう。
顔がかなり困った状態になっているのが、私の目からも見て取れる。
……そうな?
私も、ユニクスの立場であったのなら、かなり困窮してしまう質問だ。
それだけに、どの様な言葉を出すのか?
否……言うべきかで、大きく悩んだのだろう。
なんと言っても『正直に答えなければならない』と言う条件が、ここにはある。
これらを加味するのであれば、しっかりと明確な答えを正直に言わなければならない。
よって、より一層の苦悩が強いられる訳なのだが、
「私は……リダ様を選ぶ。リダ様がアリンを守れと言うのなら、私は『リダ様の為に』アリンを守る事になるだろう。よって、私はそれでもリダ様の為に生涯を捧げる所存だ」
ユニクスは真っ直ぐな瞳をみせて、自称紳士の青年へと答えた。
……うぅむ。
これが実直なユニクスの答えなんだろう。
少しこそばゆい台詞ではあるな。
そして……結局は、忠信と言うよりも愛から来ていると考えると……背筋が……っ!?




