嘘つきは、エリアボスの始まり【6】
ういういさんにとっては、金は命よりも重いので……こんな形で金を払うのは不本意極まる話なのだろう。
余計な出費は1マールでも抑えたい……それこそが、ういういさんのアイデンティティーなのだから。
「通行料?……あはは! 面白い事を言うね? 確かに、ある意味で通行料と述べても間違いないかな? 但し、お金でここを通れると思わない事さ?」
青年はニヤリと好戦的な笑みで答えた。
そして、ういういさんもニヤリと笑みを作った。
「そうか。それを聞いて安心したぜ!」
答えたういういさんは、心から安心した顔になっていた。
きっと、そのまんまの意味として捉えていたのだろう。
通行料の様な物はあるけど、お金は取らない。
すなわち無料っ!
「……何か少し語弊があったかも知れないが……安心するにはまだ早いと言う事だけは、頭の中に入れておいてくれたまえ? これから行われるゲームに勝てば、君達を次の階層へと御招待しようと言う話なのだからね」
「何? ゲームだと?」
青年の言葉を聞いて、ういういさんはキョトンとした顔になった。
私もちょっと意外と言うか……懐疑心に近い物を抱いた。
曖昧ではあるが、ここでどんなゲームを仕掛けて来るのかは、何となく予想する事が出来る。
この階層の主は誠実な者を好む。
そして、虚実を嫌い、虚言を吐く者には断罪すらも厭わない。
これらを加味するのであれば、ありのままの出来事を誠実に伝える要素を元に作られたゲームになるのではなかろうか?
……うぅむぅ。
これはまた、面倒な事になりそうだ。
ともすれば、素直に金で解決……つまり、通行料を払えば良いと言う条件であった方が、場合によってはマシだった級のゲームをやらされそうな気持ちで一杯になる私がいた。
果たして、ういういさんは青年へと尋ねた。
表情はかなり真剣だった。
もしかしたら、これから行われるゲームが余りにも不公平な物になる可能性などを考慮し、先に前以てルールなどを聞いて置こうと言う気持ちになっていたのかも知れない。
「ギャラは幾ら出るんだ?」
……金だった!
真剣な顔して、金貰おうとしたぞ、この人っ!?
金への執着心が強すぎて、私は度肝を抜いてしまった。
「最初からないわっっ!」
そして、青年が声高にがなり立てた。
……ああ、やっぱり余裕を常に見せるアピールをしている貴族様と同じだな。
ちょっとした事ですぐにメッキが剥がれる。
平静さと言うメッキが……さ?
しかし、数十秒で我に返った感じの青年は、ハッとした顔になってから襟元を正しながら口を開いて来た。
「……おっと、失礼。紳士な私が妙に取り乱してしまった様だ……普段はこんな事などしないのだがね?」
それはどう言う意味で言っているのだろう?
周囲には人間と言うか、話し相手に値する様なのが居ないから『普段はこんな事などしない』と言ってるのだろうか?
もしそうであれば、単なるボッチを公言しているだけに過ぎない恥辱発言な気がするのだが?
どっちにしても、自分を『紳士な私』なんぞと言ってるヤツに、本当の紳士がいるとは思えない。
真のジェントルマンは、根本的にそんな台詞なんぞ口にしないだろうよ。
「ほで、何をするのです?」
そこで、みかんが自称紳士の青年へと尋ねてみせた。
妙にコントめいた会話のせいで、話が一向に進まなかったので、みかんが強引に話を進めて来た……って感じの喋り口調だった。
普段は、みかんがボケまくって話を余計に長くする傾向にあったのだが……見事に立場と言うか、立ち位置が逆になっていた。
これはこれで、何とも微妙な光景とも言える。
何故なら、普段からボケているみかんにすら、余りのふざけた展開に呆れられている……と言う構図が、自然と出来上がっていた事になるのだから。
「ゲームの内容は実にシンプルだ。この紳士な私が、サルでも分かる様に公平かつ万民に理解出来る様なゲーム内容にプロデュースしたからね? きっと、すぐに理解して貰えると思うよ?」
もはや、紳士ではなく芸人か何かを見ているかの様な感覚で見る事になっていた青年は、みかんの質問に答える形で口を開いた。
自称ではあるんだが、当人は自分は紳士だと思っているからなんだろうが……青年は冷ややかな笑みをナルシスト全開で見せていた。
もしかしたら、最初からそんな感じの態度を見せていたのかも知れないけど……なんて言うか、虚勢を張る貴族様と言うより、単なる芸人に見えて来た辺りから、よりコミカルなバカに見えて来て仕方なかった。




