嘘つきは、エリアボスの始まり【2】
ういういさんによる、究極にどうでも良い訂正はさて置いて。
自動で開いた城の入口を進んだ私達は、ゆっくりとした足取りで城内へと入って行く。
……うむ!
城の外もそうだったが、城の中もやはり王族が好みそうな絢爛豪華な作りになっているな!
城内の見渡す限りが赤いカーペットで覆われており、奥の階段へと向かっている中央には、白地と水色の絨毯が別に敷かれている。
奥にある階段の手すりを軽く触って見ると……うぅむ、これは稀少鉱石だろうか?
やっぱり、手入れが行き届いていた手すりはピカピカで、あたかも鏡面仕様になっているかの様な光沢をみせていた。
天井を見ると、これまた大掛かりな巨大シャンデリアなんぞがドデンッ! と吊るされている。
なんでもかんでもキラキラしてる特殊空間……って感じだな、ここは。
白地に水色の絨毯が敷かれている中央部分には、堅牢そうな甲冑を付けた兵士がそれぞれ両端に立っていた。
……ん? 兵士が『立っていた』だと?
「……あれ? ここに住んでいるのは一人じゃなかったのか?」
程なくして、ういういさんがハテナ顔になってシズ1000へと尋ねて見せる。
私も同じ疑問が生まれて来ていたから、やっぱりういういさんと同じ様な感じで不思議そうな顔を作ったままシズ1000を見た。
すると、ういういさんの頭上に陣取っていたシズ1000は、びくぅっ! っと、かなりアセアセした態度で反応していた。
「う、う~」
冷や汗を飛ばす勢いで声を出した所で、お団子に文字が浮かんで来る。
文字を読むと『生態的な物は間違いなく一人』と書かれている。
……ふぅむ。
これで、もう、相手は魔導師で確定域に達している様に感じた。
実際の所は、まだ思案すべき不透明な材料が存在しているとも考えられるが、少なからず強力な魔法を扱うと言う点は確定域に到達している……そう、私は判断した。
つまる所、あの兵士もまた生物に分類される存在『ではない』と言う事だ。
魔導的な力によって産み出された魔導人形なのか? はたまた魔導主体で作られた人造人間なのか?
どちらに転んでも、魔法を使った特殊生命体である点に関しては一切揺らぐ事はないだろう。
相手の能力を最初から決めて掛かり、妙な固定観念を持ってしまう事は余り誉められた話じゃないのだが……しかし、仮説として有力視する程度の考え方はあって然るべきではないかとも考える。
憶測の域を得ない以上は完全に断定する事は出来ないし、余りにも魔導に片寄った情報が『私達に集まり過ぎている』と言う点にも、何らかの含みがありそうで怖い。
相手は魔導師だと言う勘違いを誘い、その固まった固定観念から油断を作ろうとしている可能性だって、決してゼロではないからだ
ここは、物事を多角面に、かつ柔軟に考える必要性があるのかも知れないな。
……と、無意識に自分の世界へと思考を埋没してしまったな。
そろそろ、視点と意識を周囲に向ける事にしようか。
「凄くねっ!? え? 水の中に、こだずんない(こんなに大きな)城があるとかって、ビックリなんだげんちょっ!?」
お国訛り全開で驚いていたのは、いよかんさんだった。
いよかんさんからすれば、水の中にいても呼吸が出来たり会話をする事が出来たりする時点で驚愕に値する出来事ではあったんだろうけど……ダンジョンの中に、目を見張る程のきらびやかなお城がある事は、更に輪を掛けて驚いたのだろう。
こんな態度を見ていると、いよかんさんは余りダンジョンに潜った経験がないのかな?……なんて思ってしまう。
その近くにいたういういさんとは対照的な態度と表現する事が出来たからだ。
ういういさんの場合、数々のダンジョンを踏破して来た関係もあり、世界中にある様々なダンジョンを目の当たりにして来た。
どの程度、ういういさんがダンジョンを踏破して来たのかまでは知らないが、相当数のダンジョンを踏破して来た事だけは、その態度から見ても良く分かる。
得てして、この世界にあるダンジョンと言うのは外の世界とは全く異なる性質を持っている事など日常茶飯事レベルで当然の事だったからだ。
簡素に言うのなら、ここがダンジョンなら普通かな?……ぐらいの感覚しか、ういういさんには生まれなかったであろう。
対するいよかんさんの場合は、どうしても外の世界にある常識から今ある状況を見てしまう為、どうしても不可思議な気持ちになってしまう。
……ふふ、でも、なんて言うか……そう言う姿を見てると、少しだけ新鮮な気持ちにさせられるな?
やっぱり、私も新人時代はいよかんさんと同じ様な態度をしていたりもするしさ?
そう思うと、フレッシュな気持ちをいよかんさんから貰っている様な気持ちにさせられた。




