嘘つきは、エリアボスの始まり【1】
世界でも屈指の難易度を誇る、百年ダンジョンの三層目。
呼吸する事が可能と言う、何とも不思議な水中にやって来た私達は、四方を手分けして探索した結果、海底の城を発見する。
まるで、海の底に沈んだかの様な海底の居城を前にし、巨大な烏賊の妨害に遭うも、特段危なげもなく打ち倒しては城の門を通り抜ける。
かくして城の中には何があるのか?
財宝はあるのか? 私の借金は減るのか?
そして、完済する事が出来るのかっ!?
……と言う、見所満載な所で始まるぞ?
見所が満載と言う割りには、私個人の事情しか述べてない様な気がするけど、私にとっては切実なのだからして……まぁ、気のせいって事にして置こう。
さて、それではボチボチ本編に戻る事にしようか。
「う~」
特徴ある声を吐き出していたのはシズ1000だ。
ういういさんの右肩辺りにいたシズ1000は、特有の声音を口から吐き出しては、お団子に文字を浮かび上がらせてみせる。
「……? 不特定な知能生物が一人?」
「う~」
シズ1000の文字を読んで意外そうな顔になったういういさんに、シズ1000はコクンを首を縦に振っていた。
実際、私も意外だった。
なんと言っても……だ?
「へぇ……こんなに立派な城だし、庭園も手入れが行き届いていたから、誰が住んでいるのかな?……とは思っていたけど、やっぱり誰か住んでいるのか。それにしても『一人』ってのは意外だったな」
私は周囲を見渡しながらも、こんな台詞を口にした。
誰か住んでいる……と言うか、この城に存在していると言う事だけは最初から考えてはいたが、まさか一人しか居ないとは思わなかったぞ。
見渡す限り、彩り鮮やかな海底の庭園が広がっていると言うのに……これをたった一人で全ての手入れをしているのであれば、ハッキリ言って驚愕に値する。
良くやれる物だと脱帽モノの感銘を受けてしまうね。
まるで、魔法でも使っているかの様だよ。
……ん? 魔法?
「ああ、そうか……魔法でも使ってるのか」
自分で考えて置いて何だが、そこまで考えた所で妙に腑に落ちた声を吐き出す私がいた。
特殊な魔法を発動させる事が可能だ……と言う仮定が、もし実際にその通りであったとすれば、この城に居住する人数が一人であっても、手入れの行き届いた美しい庭園を維持する事だって、決して不可能ではなかった。
どんな魔法なのかは知らないけど、そう言った魔法があってもおかしな事ではないからな。
例えば、人の身体を活性化させる魔法の魔導式を色々と改編して、植物を活性化させる魔法に変化させる事は理論上可能だし、他にも工夫次第で庭園の役に立つ魔法が完成していても、なんらおかしな事ではないと言う事だ。
そう考えるのであれば、この城に住んでいる者が極めて能力の高い魔導師ないし、魔導に精通する者である可能性が高いな。
うぅむ……。
すると……一筋縄では行かない相手が、私達の前に立ちはだかる事になってしまうのか。
状況次第ではあるのだが、概ね戦う方向になるだろう相手の実力を、この庭園から見出だした私は、今から幾ばくかの対抗策を練ろうと思考を張り巡らしていた。
「庭園の花と珊瑚は美しいのですが、私としてはリダ様の方が気高く美しいと思いますよ!」
途中、妙な雑音めいた声が、私の鼓膜を微かに揺らしていたが、今後の対策を練ろうとする私の耳には届かなかった。
「私、空気になってるっ!?」
そして、白目になっているユニクスの姿が視界に入るんだが……って、ああ! もう! 気が散るっ!
どうしてお前はいつもいつも、私の邪魔ばかりするんだよっ!?
私のイライラがマックス値まで上昇しようかとしていた時、庭園の先にあった城の入り口までやって来る。
城内へと繋がっているんだろう入口も、さっきの城門と同様、如何にも頑丈そうな門構えを見せていた。
普通に考えたら、人力でこじ開けるには一苦労しそうな感じの強固さを無言で醸し出している感のある門であったが、
ゴゴゴォォッ……ォォンッッ……
門は、私達が触れるまでもなく、自分からゆっくりと開いてみせた。
……ふむ。
これも、やっぱり魔法の類いで開いているんだろう。
そうなれば、城内で私達を待っている存在は、確実に高レベルの魔導師である事が、より信憑性を帯びて来たな。
「およ~。なんて大掛かりな自動ドアでしょ~?」
相手が魔導を扱う実力者である事への確信を抱く私がいた所で、みかんが驚いた顔のままボケた台詞をほざいていた。
「違うだろ、みかん? これは自動ドアじゃなくて、自動門だ!」
そこから、ういういさんがドヤ顔になってみかんの言った台詞を訂正していた。
…………。
いや、言いたい事は分かるんだけど。
だけど、本当……なんで、アンタらはそんなに悠長にマイペースを維持する事が出来るんだ?




