誠実さを試す試練だが、真の虚言者は……【16】
シリアスさのある含み笑いをしつつ、結局はコミカルの域を抜ける事がどうしても出来ないういういさんは、少し特徴のある剣……片手半剣を両手で握り締めると、素早く烏賊へと突進して行く……筈だった。
しかし、途中で思わぬ急ブレーキが掛かり、烏賊の前に来た頃には勢いが恐ろしく緩やかになって行く。
「……っ!?」
ういういさんは唖然とした顔になってしまう。
……うむ。
これは少し不可解な現象だな?
現状、確かに水中であり、空気抵抗よりも水抵抗の方が大きく作用する事は間違いないのだが……ここの水は、大気とそこまで大きな差異が見られない。
簡素に言うのであれば、普通の水と比較するのであれば、かなり水抵抗の少ないエリアでもあった。
しかし、どうだろう?
今のういういさんを見ていると、攻撃をしようとした瞬間だけ、本来ある水抵抗と同等かそれ以上の抵抗が突発的に発生し……図らずとも巨大烏賊の前で急ブレーキが掛かり、結果的に自分から相手の攻撃を受けに行く様な構図が出来上がってしまうのだ。
シュッ……バシィィィンッッ!
「はぐわぁっ!」
もう、見事に的も同然の状態になってしまったういういさんは、そのまま烏賊の攻撃をモロに喰らって弾き飛ばされてしまう。
「……およ~。何て事でしょ~。ここは大気と同じ様な性質を持つ水中だと言うのに水圧の抵抗を忘れて突っ込んで行ったら、逆にやられてしまったです~。泳ぐ事が出来たり浮力があったりする時点で、少し考えれば回避出来た悲劇の筈なのに、全然全くちっとも回避出来なかったです~」
程なくして、みかんが地味に嫌味ったらしい台詞を悪態風味にほざいて来た。
恐らく、みかんも水抵抗が少ない状態だと分かっていたと言うのに、それでもこんな台詞を吐息風味に言ってたりもする。
そう考えると、みかんのヤツも大概な性格をしてるよなぁ……。
「うるさいよっっ!?」
直後、ういういさんが大声でがなり声を上げた。
結構、モロに烏賊の一撃を喰らっていた気がしたんだけど、案外ケロっとしてるんだよなぁ……。
なんて言うか、みかんパーティーの面々はみんなタフな気がする。
まぁ、それはそれで悪い事ではないんだが。
そこは取り敢えず大丈夫そうだから良しとして……うーむぅ。
「なるほど、水圧か……面倒な話だな」
みかんの言葉を耳にし、私はある事に気付いた。
水抵抗がある……と言う事は、きっとういういさんも考慮していたろうし、思ったよりも水の抵抗が少なかったと言う事は、誰かれに言われるまでもなく、身体で実感していた筈だ。
それに、ういういさんの急ブレーキ具合は、余りにも不自然極まる止まり方でもある。
まるで、ういういさんの周囲だけ、急激な水抵抗が発生していた……そんな風に感じたのだ。
つまり、そこだけ水抵抗が……水圧が急激に上昇していた訳となる。
一体、どんな理屈でそうなっていたのかまでは分からなかったが……反面で分かった事もあった。
つまり、烏賊の周囲ないしそれに類似する場所だけ、強い水圧が掛かっていると言う訳だ。
そうなると、烏賊の周囲に入った時だけ、自分達の動きがいやでも鈍化してしまうと言う事か……なるほど。
……そうと、胸中で納得加減の思考を張り巡らしていた時だった。
「リダ様! ここは私の出番です!」
藪から棒にやる気を見せていたユニクスが、やたら得意気な態度で私へと声を掛けて来た。
顔を見る限り、如何にも秘策がある様にみえる。
「……へ? そうなのか?」
私からすれば意外だった。
ユニクスの顔を見る限りでは、なんらかの必勝方法がある様な感じに見えるんだけど、それが何であるのかは分からないし……そもそも、本当に必勝の方法なのかも疑わしい。
しかし、ユニクスはさも当然と言うばかりの態度で再び口を開く。
「当然じゃないですか! 今までの事を考えて下さい? 私は活躍して来ましたか?」
「いや、全然」
「凄くキッパリ断言して来たっ!?」
ユニクスはガーンッッ! って顔になってショックを受ける。
さっきまで得意気な顔をしていたと言うのに……随分と寒暖差の激しい態度を見せるヤツだな。
どちらにせよ、これまでのユニクスが見せていたポンコツ具合から考えても、余り期待が出来ないのは仕方がない事だと思うんだけどなぁ……?
「長く苦しい……苦痛の時間が続きました……だけど、けど、やっと到来したのです! 私の時代が!」
程なくして、またも無駄にやる気を出して来たユニクスが、瞳をキラキラと輝かせて口を動かしていた。
本当にテンションの高低差が激しいヤツだな。
まるで百面相を見ている様な感じだぞ。




