誠実さを試す試練だが、真の虚言者は……【15】
「海底神殿ならぬ、海底城って感じだな」
「ほですねぇ~。こう言った状態なら竜宮城の雰囲気と言うかそう言った物を連想してしまいますが、普通に城です。ビックリするぐらいオーソドックスなのが建ってるです」
自分なりの感想を口にしていたういういさんの言葉に、みかんが相づちを打ってみせる。
ういういさんやみかんの言葉にもあるんだが、普通に城だった。
感覚的に言うと、竜宮城の様な城ではなく、洋風の城があった。
だからして、ういういさんは言ったのだ『海底城』と。
表現的に言うのなら、ういういさんの台詞は結構しっくり来る形容でもあったのだ。
私も海底の城って表現したくなる光景だったな。
そんな事を考えている時だった。
フッ……と、急に周囲が暗くなった。
何だろう?……そう思い、私は上の方へと視線を向ける。
すると、上の方からウニョウニョした何か……恐らく軟体生物なんだろう謎の生物が、こちらに向かってゆっくりと降りて来るのが分かった。
「……? 何か、上からデッカイのが来てるんだが?」
私は不思議そうな顔になって、周囲の面々へと答えた。
直後、私の言葉を耳にしたいよかんさんも上を見て、
「……え? 何あれ? うにょうにょしてるんですけど……?」
気色の悪い物を見た様な顔付きになっていた。
実際に、余り見ていて気分の良い代物ではなかった。
外見だけを簡素に述べるのであれば、それは烏賊だ。
ただし、大きさが規格外と述べて間違いないレベルだった。
「お、およ~。すんごぉ~くデッカイ烏賊です。なんですか、あれ? グレートキングな烏賊ですか?」
みかんがポカンとした顔になって言う。
言いたい事は分からなくもないけど、これもみかんなりのボケなんじゃないかなと思う。
「いや、ダイオウイカにしたってあんなドデカイのは見た事ないぞ! つか、マジであれなんだっ!?」
普通に考えられないサイズの烏賊に、私もついつい困惑の表情を作ってしまった。
もはや、大きさ的に言うのなら恐竜みたいな烏賊だった。
烏賊が、突然変異か何かで急に巨大化し、大海原を泳いでいたのなら今の様な光景になるんじゃないだろうか?
ただ、これで相手が純粋に大海原を謳歌する感じで泳いでいた『だけ』であったのなら、私達も単純に『壮観だなぁ~!』って感じの台詞を口から漏らして終わったのだが……そうは問屋が卸さなかった。
程なくして、私達の真上辺りまでやって来た巨大烏賊は、触手染みた複数の足を高速で飛ばして来る。
明らかに私達を狙っての攻撃だった!
「え? へ? きゃぁぁぁっっ!」
鋭く飛んで来た巨大烏賊の足により、いよかんさんが大きく吹き飛んでいた。
他のメンバーにも足攻撃が飛んで来ていた模様だが、しっかりと避けている。
もちろん、私もその一人であり、胸元で今だ夢の中であったアリンも無事だった。
……と言うか、結構モロに入ったみたいだけど……いよかんさんは大丈夫なんだろうか?
「大丈夫かいよかん! ばっぱは怖いから逃げて良いかっ!?」
「良いわけねーべっ! 少しは応戦しろっっ!」
……うん、大丈夫だね。
最初は心配した私だが、その心配が全くの不要であった事実を知るのに、三秒と必要とはしなかった。
流石はみかんの孫って所だろうか……しかし、頑丈なのはわかるけど、あのレベルの攻撃なら最初から避けても良かったんじゃないだろうか……?
「なるほど、アイツがここの門番……って訳か」
みかんのボケにしっかりと大声で対応していたいよかんさんを見て、ういういさんは左腰の剣を抜いてみせる。
余りにもクリティカルな当たり方だったので、ういういさんも少しは心配した模様だが……私と同じく、心配する必要なんぞなかったと三秒で悟ったのだろう。
剣を引き抜いたういういさんは、完全に巨大烏賊へと焦点を絞っていた。
……そう。
今のういういさんは、巨大烏賊に全ての意識を集中させていた。
なんともストイックで、ニヒルな笑みをハードボイルドに浮かべて。
「こんなデカイ烏賊だ……さぞや、レアな素材が取れるに決まっている」
そして、物欲の権化としか他に形容する事の出来ない言霊を、口から吐き出していた。
口さえ開かなければ、格好良い冒険者で終わったのだが、しっかりとオチを用意して来る辺りが、なんともみかん達のパーティーメンバーらしい。
恐らく、ういういさんはみかんパーティーのツッコミ役だと思ったんだけど……それでも、ボケを担当する部分もあったりするんだよなぁ……。
そう考えると、ボケの無法地帯みたいなパーティーだよなぁ……みかんのパーティーって。




