誠実さを試す試練だが、真の虚言者は……【13】
嘘と言っても、全てにおいて姑息な物ばかりとは限らない。
さっきの半魚人が、私を裏切る様な行為を前提に嘘を吐いたと仮定するのであれば、それは完全無欠の姑息な嘘に値する訳なのだが……相手を気遣ったが故に吐く方便もある。
これだって、嘘と言う行為その物に、なんら変わりはない。
つまり、嘘は許せないと言う部分が、果たしてどの様な所まで適用されるのか?
常識的に考えるのであれば、前者のみを罰し……後者にはそれ相応の酌量を認めるのが筋だ。
人徳ある方便であり、相手を思いやるが故に、つい嘘を吐いてしまったのであれば……度合いにもよるが、幾分かの情状酌量の余地を与える必要性はあるだろう。
しかし、それすらもなかったのなら?
情状酌量の分別などなく、同じ嘘として見境なしに虚実を嫌う存在と言う事になるだろう。
私の視点からするのなら、余り良い性質を持っている存在には見えない。
私に分かる事は、嘘吐きを毛嫌いしていると言う一点のみであったが故に、少し勘ぐる様な思考を持ってしまった。
純粋に、正直者を好むと考える事が出来たのなら良かったのかも知れないけど……はは、私も少しひねくれ者になってしまったのかな? どうにも素直に物事を見る事が出来ない質になった模様だ。
どちらにせよ、その性質は分からないが、虚言を嫌うと言う部分だけ分かった。
この事実が、好転に繋がるのかどうかは、今の時点では不明ではあるのだが……取り敢えず、頭の片隅にでも留めて置く事にしようか。
こんな事を考えつつ、私は珊瑚で出来た塔を後にしたのだった。
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珊瑚で出来た塔から、再びこの層の入り口付近まで戻って来た私は、他の方位を探索して来た面々と再び合流し、互いの探索結果を発表する形を取っていた。
そこで私は敢えて、こう言ってみせる。
「取り敢えず、塔みたいな大きな建物があったな? それ以外? うん、特にはなかったな! 大きな宝石とかなかったぞ?」
一見すると、単なるネタの様な台詞を。
我ながら、実に不自然極まる台詞だったと思う。
だって、怪しいを通り越して『私は嘘を吐いています』と遠回しにほざいている様な物だからなぁ……。
当然、わざとやっている。
ボケ風味にしていたのは、私なりの愛嬌だと思ってくれて結構だ。
しかし、私の真意はボケがやりたかった訳ではないんだぞ?
このエリアのボスが、どの程度『嘘を嫌うのか』を試したかったのだ。
あの半魚人は、ボスが自分達の前に居なかったと言うのに……それでも虚言を口にする事をしなかった。
そうなれば、ボスが近くに居ようと居まいと、関係なく『嘘を吐いた時点で、なんらかのペナルティを課せられる』と言う可能性が極めて濃厚であったからだ。
そこで、私は少しばかり実験をしてみたくなったのだ。
この階層……嘘を嫌うボスがいるエリアで実際に嘘を吐いたのなら、どの様な結果になるのだろう?……と。
仮になんらかのペナルティが課せられるとして……どの様なペナルティが発生するのか?
実際に自分が被験者として身体を張った実験となる為、一定のリスクが伴う可能性が極めて高い実験ではあったのだが……だからと言って、他人に被験者役をして貰うのは心苦しい。
私的に言うのであれば、相手がユニクスであったのなら、それでも構わないかなぁ……なんて言う、微妙に邪な思考も脳裏を掠めたが……どの道、ユニクスを被験者にするにしても一定の嘘をユニクスに言わなければ行けない関係上、どの道、嘘を吐かなければならない。
よって、シンプルに嘘を吐いてみた。
色々と頭を使えば良かったのかも知れないけど……面倒だから、自分で被験者をしてやろうじゃないか。
思い、わざわざ嘘を口にして見たのだが……あれ? 何ともないぞ?
てっきり、嘘を吐いた瞬間になんらかの動きがあると考えていたんだが……今の所は、なんのペナルティを課せられる様子もなければ、私に何かの変化が訪れる様子もない。
これはどう言う事だろう?
頭の中でのみ小首を傾げる様な心境になっていた中、
「特段、何もなかったです~。図鑑にしか載ってない様な、かなり稀少な魔導器なんてなかったです~。雑魚いモンスは数匹いたです。これは本当なのです」
みかんが、完全にボケた発言を私達に向けて発していた。
…………。
どうやら、私の言った台詞が、そのままみかんのボケへと発展してしまった模様だ。
あるいは触発されたのか?
それとも、単純に便乗したのか?
どっちにしても、こっちは冗談っぽく言ってるだけで、実はボケている訳でもなんでもない行為だったりするんだよ!
お前の様に、純度100%のウケ狙いなボケとは、物凄く質の違う言葉なんだよ!
その台詞のせいで、私まで純然なるボケ台詞を吐いた人間にみえてしまうじゃないかっっ!?




