誠実さを試す試練だが、真の虚言者は……【12】
水の抵抗が全くないと言えば、その限りではない。
やはり、空気抵抗と比較すると結構な圧力が掛かる……そんな感覚があるな?
しかし、それでも本来の水中から考慮すると、限りなく大気の中にいる状態と変わらない程度の抵抗しか存在していなかったのだ。
故に、私の持つ元来の素早さはそこまで変わらない。
上へと逃げる様に泳いで行った巨大半魚人を素早く追い抜いた私は、
ドコォォォォッッッ!
クルンッ! っと一回転した後、オーバーヘッド状態で半魚人の頭に蹴りを叩き込む。
脳天を直撃した巨大半魚人は、まるで壁にぶつかってバウンドでもしたかの様に地面へと落ちて行く。
ズドォォォォンッッ!
そのまま珊瑚で出来ているっぽい床に突っ込んで行き、大きなクレーターを作った。
うむ、やっぱり水の抵抗はそこまでではないな。
さっきも言ったが、水の抵抗が若干ある物の、私が知る限りで普通の水中から比較すればかなり自由に動く事が出来る。
これは、私にとっての朗報でもあるな?
「あわわわ……」
残った一匹が、顔面蒼白のままガタガタと震えている。
そんな顔をする羽目になるのであれば、最初から私を襲わなければ良いのだ。
……まぁ、ここがダンジョンだと言う事を考慮するのであれば、コイツもダンジョン攻略をする冒険者を襲う役割を担っていたのかも知れないが。
逆に言うと、冒険者サイドもコイツを倒す事は最初から決められていた目的と言う事かも知れないがな?
弱い者は食われる……そう言った、実にシンプルかつ自然界の掟染みた弱肉強食の世界であるのなら、コイツらのやっている事はそこまでおかしな事ではないし、私に殺されるのもまたおかしな事じゃない。
簡単に言うのであれば、むこうが私を喰らうつもりで来ているのであれば、逆に殺される結果になったとしても文句は言えない。
むしろ、どうして私が相手を殺さないと考えたのか?
そっちの方が不思議でならないぞ。
「……次は、人食なんて悪趣味な事をしない生物に生まれ変わる事を祈ってやろう」
答えた私は、蒼白になっていた巨大半魚人の前に立ち、スゥ……っと右手を向けた。
水の抵抗がある関係上、多少威力が落ちるが……補助スキルによって魔力が上昇している事と、眼前とも言える近距離であれば一発で塵に出来る。
せめて、苦しむ事なく三千世界に送ってやろうじゃないか。
「すまん! お、俺達が悪かった! ここにある財宝を渡すから、命だけは勘弁してくれ!」
直後、半魚人は典型的な命乞いをして来た。
余りにもテンプレートな台詞だったから、思わず片眉が捻れてしまったぞ。
何てか、子悪党の常套句みたいな?
そして、油断した所を叩く的な?
そんな、何ともお約束な未来が見えた気がした。
しかしながら、まだ完全にそうとは限らないのも事実。
ここは、油断だけしない様にして、相手の要求を飲むのも手かな?
別に、私はコイツに大きな恨みがある訳でもないし。
次に来る冒険者も、この階層まで降りてこれる程の猛者であるのなら、今いる程度のモンスターに遅れを取る事もないだろう。
数も結構減らしているし、大丈夫かな?
「良いだろう。但し、予め言っておくぞ? お前の言った事が嘘なら一秒掛けずにボンッ! っとなる。そこだけは覚悟しておけ?」
「はは……疑り深い方だ。この階層は別名『誠実さを示す場所』と呼ばれている程に、嘘を吐く事が出来ない所でもあるんだ。安心してくれて良い」
「……は?」
なんだそれは?
思わずポカンとなる私がいる中、
「嘘を吐いたら……どの道、この階層のボスに殺される。そんな愚かな事はしないのさ?」
続ける形で半魚人はこんな事を言って来た。
その後、半魚人は約束通り、この塔の財宝なんだろう宝石を私に渡して来た。
…………。
どうにも腑に落ちない話だった。
こんな台詞の裏には……大抵、私を陥れる様な罠が存在している筈だと言うのに。
もう、私はお約束だとおもっていたよ!
絶対に私が油断する所を探して、隙を突いて来るのがセオリーだと思って、それ以上の事は予想もしなかったぐらいだ!
むしろ、昔の童話みたいな勢いで素直に宝石を渡して来た時点で、渡された張本人である私がポカンとなってしまった。
……が、その反面で思う。
これは、この階層のボスがそれだけ恐ろしい存在であるからこそ『そうしている』のだろう……と。
ぐぅむ。
まぁ、このエリアを仕切っているボスなんだから、所詮雑魚同然と言える半魚人が素直に従うのは分かる。
力にアッサリ屈するタイプにも見えたからな?
しかし、それでいて色々と引っ掛かる部分もある。
このエリアのボスは、嘘を嫌うとして……それはどう言う嘘を述べているのだろうか?
私にとって、少なからず謎だ。




