誠実さを試す試練だが、真の虚言者は……【11】
「おい、人間……貴様? 今の状態がどうなってるのか知らないで言ってるのか?」
「知ってるな? 弱いクソ雑魚の半魚人が、雁首揃えて意気がってる」
「この……言わせておけばぁっ!」
叫び、近くにいた半魚人が、瞳を血走らせて私へと突っ込んで来た。
両手には巨大な銛の様な物を握り、勢い良く私を串刺しにしようとする。
先端にある刃の部分が三ツ又になっているので、銛と言うよりも槍に近い感覚だろうか?
その巨大な体躯に合わせた三ツ又の銛だったので、長さ的にも長槍よりも長い。
だが、デカければ良いって物じゃないだろ?
刃が私の眼前にやって来た所で、
ガシッッ!
私は、三ツ又の刃を右手で掴んでみせた。
そして、刃は獲物ごとピタッッ! っと止まって見せる。
完全に制止画像でも見ている様な光景になった。
「くたばれ」
バキョォッッッ!
次の瞬間、私の飛び蹴りが半魚人の顔面にクリーンヒットしていた。
この一撃によって、顔面が完全に陥没してしまう。
うぁ……完全にスプラッタだな、これ。
これは、見ていて気分が悪いから、別の方法で倒す事にしよう。
……と、その前に、
超攻撃力上昇魔法レベル99!
超防御力上昇魔法レベル99!
超身体速度上昇魔法レベル99!
超龍の呼吸法レベル1!
補助スキルと補助魔法を発動させて置こうか。
私の見立てでは、特段バフを必要とする程の実力があるとは思えないモンスターではあったが……人食らしいからな? 用心に越した事はない。
特に、今はアリンが一緒にいる。
ここで私が油断して、アリンに何らかの危険が及んだのなら……私は一生後悔するだろう。
……でも、超龍の呼吸法はレベル1で十分だな? それ以上のレベル上昇は面倒だからこれで良いや。
途中、それって十分に油断してるのでは? と思われる思考が、私の中にほんの少しだけあった気がするけど、そこはご愛敬だ。
何より、これで終わりとは限らない。
コイツらを倒せばそれで終わりであるのなら、まだ全力を出しても構わない所があるんだけど、そうじゃないのなら、なるべく余力を残した戦いを心がける必要があるだろう。
ここで全力を尽くしたら、次に出て来たモンスターにやられた……なんてパターンだって考えられるからな。
純粋に面倒だから……とか、タルいから全力を出さないとか、そう言うのとは違うのだ!
実は半分ぐらいはそうだけど、もう半分は違うのさ!
閑話休題。
血気盛んに一人で突っ込んで来ては、そのまま華麗に玉砕していた巨大半魚人を見て、周囲の目の色も大きく変わる。
かなり私の実力を高く見積もったのか? あるいは単純に最初からそのつもりだったのか?
残った六体の巨大半魚人達は、一斉に私へと突っ込んで来る。
もう、完全に『全員で掛かればどうにかなる!』の、図だった。
砂糖水より甘いねぇ……やっぱり、所詮は魚って所か。
突っ込んで来た三ツ又の銛を、私は寸手の所でかわす。
ギリギリまで避けなかったのは、他でもない。
六体が、それぞれ四方八方から私を串刺しにしようと突っ込んで来ていたからだ。
そして、
「ぐぼぉっっ!」
「ぐわぁっっ!」
突っ込んで来た半魚人達は、それぞれ自分達の刃を対面から突っ込んで来た半魚人へと突き刺していた。
つまり、同士討ちを狙っていた訳だな?
わざわざ動かなかったのは、相手を引き付ける目的があったのだ。
魚ってのは、やっぱり頭が余りよろしくはないらしい。
半分は人間なんだろうし、言葉を話す事だって出来るのだから、それ相応の知能があっても良い物だろうに。
完全な同士討ちによって倒れた半魚人は四体程。
取り敢えず、即死だけは免れたみたいだけど……うむ、これは完全に死ぬな。
回復魔法か、復元魔法でも発動しない限りは、出血多量で死ぬのが目に見えているレベルの深い傷を受け、地面へと倒れて行く。
残り二体は、途中で私の作戦に気付いたのか? 途中で攻撃するのをやめていた。
どうやら、少しは頭の回る魚もいるらしい。
……どの道、そこまで理知的な面構えなんぞしてなかったし、実際に知能指数が高そうにも思えなかったんだけどな?
「これで残り二体だな? どうされたい? 蹴り殺されるか? それとも壁にめり込むだけのパンチを受けて、一瞬で死ぬか? 私はどっちでも構わないぞ?」
「……っっ!?」
答えた私の台詞を耳にし、二体の内の一体が、臆病風に吹かれる形で上へと逃げ帰ろうと泳ぎ始める。
……バカなの?
逃がすと思ってるの?
「そうか、一発では死にたくないんだな?」
次の瞬間、私は大きく地を蹴った。
水中だけに、水の抵抗もあってかなり動くが遅くなる……そう思える様な動きではあった。
しかし、私は最初の一撃を巨大半魚人に叩きつけていた事で気付いたのだ。
ここは、泳ぐ事が可能な空気中と変わらない動きをする事が出来る!……と。




