誠実さを試す試練だが、真の虚言者は……【10】
ただ、私が知る半魚人と比較すると、とんでもなく大きい。
私が知る限りだと、半魚人の大きさは、普通の人間と同じか少し大きい程度。
しかし、私の眼前にやって来た半魚人の大きさは、ちょっとした巨人程度はある。
目寸法になってしまうが、およそ三メートル近い体長があるんじゃないだろうか?
この時点で、私の知る半魚人とは大きく違った。
「……ほう? このダンジョンに一番乗りでやって来た獲物が早速現れたと思って来てみれば……小さなメスのガキが一匹と、ひ弱そうな人間が一匹かよ……」
果たして、半魚人は私を見てつまらない顔になった。
いきなりやって来てなんだよ、マジで?
「アンタは何者だ? ここの番人かなんかか?」
どうにも舐めた態度をして来るデカイ半魚人を見て、私はちょっとばかり面白くない口調で尋ねてみせた。
すると、
「ふんっ! ひ弱な人間ごときに言う必要なんざねーんだよ! お前はおとなしく俺様に喰われれば、それで良いんだ。分かったかっ!?」
ああ、私達を食べるつもりだったのか。
まぁ、コイツ……普通に冒険者を食べ物か何かと勘違いしてそうな雰囲気を出してるからなぁ。
詳しい事は知らないが、ここの塔にやって来た冒険者達を食べる目的を持つ、凶悪なモンスターなんだろう。
それなら話は早い。
こんな人食モンスターなんぞ、のさばらせて置いたらロクな事にならないからな?
「そうかそうか。じゃあ、鱈腹喰らえ。私の鉄拳を」
ゴッッッ!
次の瞬間、巨大半魚人は吹き飛んでいた。
「はぶわぁっっ!?」
吹き飛んだ半魚人は、そのまま見通しの良い塔の端っこにある珊瑚で出来ているんだろう壁まで吹き飛び、
ドカァァァァッッ!
けたたましい衝撃音と同時に壁へと激突していた。
「な、なななな……っ!?」
一瞬にして表情を変える巨大半魚人。
壁に激突し、背中を強かに打って、全身が麻痺してしまったかの様に身体を動かす事が出来なくなっている……様な動きをみせていた巨大半魚人を前に、私はゆっくりと歩きながら近付いて行く。
「お前が冒険者を食い殺す様な相手であれば、私としては見逃す訳には行かんなぁ……? 未然に犠牲者が出ない様、さっさと消して置いた方が良さそうだ?」
答え、私はニィ……っと笑みを作った。
「…………」
巨大半魚人は絶句した。
恐らく、ここに来てようやく悟ったのだろう。
会長様の実力ってヤツを……だ?
だが、もう遅いぞ?……何もかもが、な?
ゴォッッッッ!
次の瞬間、私の鉄拳がヤツの顔面をとらえていた。
距離的に数十メートルあり……かつ、私がアリンを抱きかかえていたと言う油断もあったのだろう。
まさか、私がゼロ距離加速状態で瞬時にスピードを上げて、一瞬で自分の頭蓋骨を割る様な鉄拳が飛んで来るとは思わなかったらしい。
「へぶわぁっ!」
ヤツの視点からするのなら、ゆっくり歩いていた筈の私が、次の瞬間には私の鉄拳に変わっていたに違いない。
そして、私は自分を殺すつもりの攻撃をして来るとも考えなかったらしい。
……甘いな?
私は、同胞を食い殺す様なモンスターを相手に、優しい攻撃なんぞしないぞ?
一瞬で事切れたのか?
鉄拳を食らい、その勢いで真後ろにあった珊瑚の壁に顔をめり込んだ巨大半魚人はピクリともしなくなる。
何だよ? とんだ見かけ倒しもいた物だな?
そんな事を胸中でのみ呟いた時だった。
「……おや?」
上空……いや、水中だから上の水中とでも形容すべきか? ともかく、今の巨大半魚人と同じ様な要領で、上から落ちる様に潜って来る存在がいる事に気付いた。
……うむ。
「コイツらと同じか?」
見る限り、物凄い勢いで潜って来るのは、やっぱり半魚人の類いだった。
大きさも恐らく同じ程度か?
それなら、もう……答えは出てるな?
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォォンッッッ!
強烈な爆発が周囲を掌握する。
……ぐむ。
「空気が吸えても、やっぱり水としての性質は持ってるのか……」
面倒だから一掃してやろうと、上に向けた巨大爆発であったが、その威力は大きく減退していた。
補助スキルによる魔力補正がなかったと言うのもあるんだろうが……落ちる様に潜って来た半魚人達は、多少のダメージこそ受けつつも、戦闘不能状態になる事なく私の前へとやって来る。
数は……5・6・7……七体だな。
「弱そうな人間が、一人でノコノコやって来たと思ったが……どうやら、少しはやる様だな?」
落ちて来た半魚人の一人が、私へと好戦的な口調で声を吐き出して行く。
……どうでも良いが?
「頭数揃えれば勝てると思っているのか? 所詮は魚のオツムしかないと言う事だな?」
私は鼻で笑う感じの悪態を、周囲の半魚人達へと吐いてみせた。
こう言うヤツ、いるよなぁ? 人数が多くなると、俄然態度がデカクなるヤツ?
デカイのは、その体格だけにしとけ?




