誠実さを試す試練だが、真の虚言者は……【7】
シズ1000が新しく再編集した、バカでも分かる水質検査報告書の内容は至ってシンプルだ。
主な概要を省き、箇条書きで要点だけをまとめた形で書かれていた。
内容を述べるとこんな感じだな?
・毒はない。
・見た目は水だが、大気と遜色のない行動を取る事が出来る。
・見た目通りに浮力は発生するので、泳ぐ事は出来る。
・一部、謎の爆発を起こす異分子が含まれている。
以下の結果、この水は安全である。
「最後が危険じゃねぇかぁぁぁっっ!?」
ういういさんは叫んだ。
ごもっともなツッコミだった。
最後の項目が、もはやオチなんじゃないかって言いたくなる様な内容と言える。
しかしながら、確かにこの水に直接的な危険がないと言えば、これはこれで間違いはないのだから……まぁ、シズ1000の調査結果が額面通りであれば……ではあるが、特に然したる危険はないと言う結果になる。
ただ、やっぱりこの水は普通ではないわな?
爆発すると言う時点で普通とは掛け離れた水質と表現する事が出来るんだけど……それ以外にも、色々と不思議な成分が多数含まれている事も確かだ。
総体的に見るのなら、多少の注意をする必要がある模様だが……それを抜かせば、そこまで危険視する物もなかった。
だからだろう。
「でも、この報告書を見る限りだと、大気と遜色ない行動を取る事が出来るみたいじゃない? そうなったら、呼吸も出来るし、物を食べたり飲んだりする事も出来るって事だよね? そう言った意味では、凄く不思議ではあるんだけど、直ぐに危険がやって来る……って事はない訳だよねぇ?」
近くで報告書に目を通していたいよかんさんが、笑みを作ってからういういさんへと口を開いていた。
「……なるほど、そうなるのか」
いよかんさんに言われ、ういういさんも少し納得混じりの声を返した。
しかし、完全には納得していないと言うか……妙に嫌そうな顔をしていたりもする。
気持ちは分からなくもない。
だって、謎の爆破成分がある様な水と聞いているんだから、少なからず気分的には悪くなるに決まっているのだから。
「……まぁ、爆発を起こす謎の異分子は、なんらかのトラップと言う可能性もあるからな……もしかしたら、ちゃんと気を付けていれば大丈夫なのかも知れない」
答えたういういさんは、自分に言い聞かせる様な感覚で呟いていた。
結局は、やっぱり何処か腑に落ちないと言うか……何処かでやっぱり警戒している様な顔を最後までしてはいたんだのだが。
ま、どちらにせよ……だ?
「報告書は読ませて貰った。この水質検査に間違いがないのなら……一定の条件がない限り、爆発は起こらないみたいだ。当面の安全は確保する事が可能だってのも分かったし……まずは、中に入ってみようか?」
私は周囲のメンバーへと、軽く促す感じの台詞を口から吐き出した。
結局の所、まずは動いてみないと分からない部分が多すぎる。
いたずらに、無作為なアクションを起こす事に関しては閉口するかも知れないが、今の状況を冷静に判断するのなら、まず行動を起こす事が先決なのではないだろうか?
少なからず、この時の私はそう思ったんだ。
そして、誰よりも先に行動へと移してみせる。
毒もなく、呼吸も可能……この二つが確定の域に来ているのなら、もはや躊躇する必要もない。
よって、周囲のみんなよりも先に水没した通路へと足を向けた。
「取り敢えず、入ってみるか?」
「そうだね? そうしよう!」
そんな私の行動を見て、ういういさんといよかんさんの二人も水没エリアへとやって来る。
「おお、本当だ! 呼吸が出来る」
「そうだね! しかも水の中なのに、まるで空気中にいる様な感覚で会話も出来るよ!」
水中に身体を委ねる形で入って来たういういさんといよかんさんの二人は、かなり意外そうな顔と声音で、こんな会話をして来る。
……いや、水質検査報告書にそうだと書いてあったじゃないか。
私からすれば、特に驚くに値しない現象だと思うんだが……?
まぁ、けれど不思議な感覚かなぁ……とは、私も考えているかな?
その後、他のメンバーも次々と水中へと入って行き……最後にシズ1000が水没エリアへとやって来る。
余談だが、スキューバー・ダイビング用の格好をしてた。
白衣の格好や、郵便屋の格好をしていた時も少し思ったんだけど……どうして、シズ1000はそこまで格好に妙なこだわりを持っているんだろう?
呼吸する事が可能で、溺れる危険性も皆無に等しいと言う事を誰よりも良く知っていると言うのに……。
…………。
……いや、そうだったな。
シズ1000と言う謎生物について、あれこれと難しく悩む事、それその物が根本的に間違っていたんだったな。
だけど……毎回毎回、やっぱり変な魔導人形だよなぁ……なんて思ってしまう私がいて……悩んだ所で答えなんか出ないと言う事が分かっていても、ついつい悩みたくなる様な事をして来るシズ1000。
いつか、この謎生物の完全解析をする日が来るんだろうか?
特段、する必要はないかも知れないが……この時、私はなんとなくシズ1000の謎を、ほんの少しでも解いて行きたい様な気持ちで一杯になって行くのだった。




