黄金島の二層目は、火山地帯【23】
そんな……体力も精神も限界近くにまで到達していた頃……ようやく、この迷路の終着地点へとやって来た。
な、長かった……。
本当、まさかこんなに気力と体力を使う羽目になるとは思いもしなかったぞ……全く。
「や、やっと終わりましたか……はぁ、何と言いますか、迷宮のレベルが高いとか言う以前に歩き疲れてしまったのは私だけでしょうか……?」
迷路の終点を意味するトンネル様な所にやって来て間もなく、ぶつぶつとぼやく感じの口調で私へと声を吐き出すユニクスの姿があった。
そこかしこに高い声で……ういういさんにも聞こえる感じでぼやきを口にしていたのは、きっと遠回しな嫌味だったのだろう。
その気持ちは分かるし、嫌味の一つも言いたくなるのも分かるので、私は強く言及する事はなかった。
その代わりと言うのも変な話ではあるんだが、
「なんだい? この程度でもうバテたのかい? やっぱり学生には敷居の高い迷路だったんじゃないのか? 次はもっと難易度の低い所をおすすめしたい所だな?」
ユニクスの嫌味を、悪態で返して来るういういさんがいた。
やっぱり、こう言うしたたかさは、現役の冒険者らしい。
少し前までは、ユニクスを奮い立たせる様な台詞を連発し、如何にも相手をその気にさせる感じのいい人を『演出していた』と言うのに、用事が済んだら当然の様にしれっと毒を吐いて来る。
正確に言うのであれば、ユニクスが遠回しながらもういういさんを悪く言う感じの台詞を口にしたから、ういういさんも然り気無くナチュラルな悪態を吐いて来たのだろうが。
このナチュラルさもまた質が悪い。
言葉の成り行きと言うか、自然の流れから普通に言っている『様に見えてしまう』所がポイントだろうか?
簡素に言うのなら、もっと痛烈な悪態を言う気になれば、幾らでも口にする事が出来そうな所が怖いのだ。
……そう。
なんと言うか、返しを沢山持っているからこそのナチュラル加減とでも言うべきか?
ここらは、やっぱり場数の差だな?
冒険者は、何もバトルだけが経験の全てではない。
そんな物は、冒険者をやる上での要素の一つに過ぎないんだ。
例えば、商談に必要な話術もある程度は必要になる。
そして、必死だ。
理由は簡単だな? 単純に純粋に生活が懸かっているからだ。
よって、減らず口も自分の生活費を左右する大きなファクターにすら成りうるのだ。
そんな生活ばかりの連続で、切磋琢磨しているういういさんだけに……口は上手くないと生活出来ない。
然り気無い悪態の付き方はもちろん、いい人を自然体……の様に演じる事が出来る能力とか、そう言うのも冒険者としての駆け引きを幾度となく行って来た顛末に身に付けた代物なんだろう。
もちろん、減らず口と無駄な策略を練る事に置いては学園随一と悪名高いユニクスであろうと、本気でういういさんを陥れようとすれば、返り討ちに遭う可能性の方が高いだろう。
つまり、素直に退散した方が賢明だった。
まさに海千山千の腹黒いトレジャーハンターをしていたういういさんに、ユニクスのフラストレーションが上昇していた頃、
「王手、飛車取り!」
なんかおかしな声が聞こえて来た。
ようやく迷路を抜け、ふぅ……と、まずは一息口から吐き出し、再び視界に入って来た火山地帯にやって来た所で、転がって来た第一声がこれだった。
程なくして、声がした方角へと向かって見ると……。
「はぐわぁっっ! ま、まで、ばっぱ! それはちぃぃぃっっと厳しくねっ!?」
やっぱりおかしな光景が、私達パーティーの前に存在していた。
ゴウゴウと燃え盛る火炎と、グツグツ煮えるマグマを背景に……みかんが、私も知らない謎の女性と将棋をしていたのだ。
ここ、何処だと思ってんだ? お前は?
みかんに常識と言う物がないのは、私なりに色々と知ってはいたし、そんな事は今更な部分も多々見られるのだが……それにしたって、百年迷宮のダンジョンで悠々と将棋とかするか? 普通っ!?
呆れの感情が思いきり先を行ってしまい、思わず何を口にして良いのか? それすらも本気で苦悩してしまう様な心理状態にある私がいた。
他方、ういういさんもやっぱり不自然と言うか、異様であると思ったのだろう。
私と同様……呆れ眼状態になって、
「何で、こんな所で悠長に将棋なんかしてるんだ? アイツらは?」
何とも謎だと言うばかりに口を開いていた。
至極当然過ぎる台詞だった。
草しか生えない光景過ぎて、私としてもやっぱりどんな台詞をういういさんに返して良いのか分からないや。




