黄金島の二層目は、火山地帯【15】
しかし……この、精密な蓋にも驚かされたんだが……それ以上に驚いたのは、アリンの言葉だ。
紅蓮の炎は頼もしく。
どうやら、合言葉はこれで当たっている模様だが……何を根拠にこんな言葉を出して来たと言うのだろう?
「なぁ、アリン? どうして合言葉がそれだと思ったんだ?」
「お? えと、えと……壁に書いてあったからだお~!」
……凄くシンプルな答えが返って来た。
ぐむ……もしかしたら、私は物事を難しく考え過ぎたのかも知れない。
言われて見ると、確かにそんな事が書いてあった。
岩壁にデカデカと精霊文字で書いてあった文字を、一語一句遜色なく述べると『紅蓮の炎は頼もしく』だった。
単なるヒントだと思っていたんだが……まさか、合言葉をまんま書いてあるとは思わなかったぞ……。
逆に言うと、それだけ堂々と書かれているから、私の様に難しく考える人間からすれば合言葉を言う事が出来ないのかも知れない。
アリンの様に柔軟かつシンプルに物事を考える事が出来ないと無理な気がするな。
……単なる思い付きで言った言葉が偶然当たっただけの話かも知れないけどさ。
結果はどうあれ、アリンの柔軟かつ素直過ぎる程に素直な発想のお陰で大きく前進する事が出来たのは確かだ。
まぐれ当たりであったとしても、結果オーライって事で良いだろう。
……それはそれで良しとして。
「これは、なんだろうな?」
カモフラージュされた蓋が開いた先にあったのは……ボタンかな?
見る限り、それは何らかのスイッチを意味する感じのボタンに見えたんだが、当然ながら何を意味するボタンなのかなど知る由もない。
小首を傾げながらもボタンを見据える私がいる中、
「分かんないから、押すお」
ポチッ!
全く躊躇する事なく謎ボタンを押すアリンがいた。
……って、ちょっ!?
ここは高難度ダンジョンなんだぞっ!?
そんな、考えなしにポンポン手を出してたら、命が幾つあっても足りな……。
慌てふためきながらも、顔を蒼白にしていた私がいた時だった。
シュバァァァァァァァァッッッ!
ちょうど崖になっている目前の地面から、噴水の様な溶岩が飛び出して来た。
……っ!?
私は愕然となる。
やっぱり罠だったかっ!
私は咄嗟にアリンを自分の胸元に引き寄せた。
これだけの溶岩が一気に噴射されれば、辺り一面に物凄い量のマグマが四方八方に撒き散らされるに決まっている!
当然、そんな事になってしまった日には……火傷じゃ済まされない状態になってしまう事は言うまでもない!
……そう。
普通に……常識の上で言うのなら、間違いなくそう言う状況になる筈だった。
しかし、実際は違った。
「おぉぉぉっ! デッカイ花火みたい~! キレ~だね、か~たま!」
マグマの様な物は実際に周囲へと散らばる形で飛んでいたし、小粒程度ではあったが、私やアリンの身体にも付着していた。
この時点で大火傷は免れない筈なのだが……不思議な事に、全然熱くないのだ。
厳密に言うと、ほんのりと暖かくはあるんだが……マグマを直接触ったのなら暖かいで済む筈もなく、地肌に直接当たれば一瞬で肌が蒸発するレベルの熱量を誇っているのが常識でもある。
所がどうだ?
あのマグマに限って言うのであれば、恰も常温のマグマなんじゃないのか? と、有りもしない空想のマグマを予測してしまいたくなるまでに、暖かい程度で済んでいるのだ。
「……なんだ……これは?」
ポカンとなる事しか出来なかった。
他方、ここがダンジョンであると言う事を思い知らされる。
なんて事はない。
ダンジョンと言うのは、外の世界とは別の概念と言うか、ダンジョンの中でだけ適用されるダンジョンルールみたいな物がある。
例えば、外は昼間なのに、ダンジョンの中に入ったら夜になっていたり。
上に登った筈なのに、何故か下へと降りていたり。
西から太陽が昇る事だってある。
つまるに、外とは全く違う概念……そのダンジョンでだけ適用されるオリジナルの特殊な現象が当たり前の様に起こるのだ。
この現象は、別にこのダンジョンだけが特別と言う訳でもなく、他のダンジョンでも割りと普通に起きていたりもする。
この世界に生きる冒険者であるのなら、暗黙の了解とも言えるレベルでもあった。
これら諸々を加味するのであれば、
「なるほど、あのマグマは触る事が出来る……って事か」
ういういさんが納得混じりに口を開いた。
私も同じ答えだ。
常識の上で行くのなら、生身の人間が炎に触る事など出来る筈もないし、マグマなんて触れば骨まで蒸発してしまう。
しかし、このダンジョンに限って言うのなら、その限りではないと言う事になる。




