黄金島の二層目は、火山地帯【6】
この調子で、今の階層を抜ける事が出来るのなら、後続との差も大きく広がる事だろう。
今は追い付かれる事を念頭に置いた行動をしないと行けない関係上……下手に遠回りも出来ない状態になっているが、このペースを保った状態で下の階層に向かう事が出来たのなら、次からは少し時間に余裕が生まれるに違いない。
あるいは、一旦引き返すパーティーも多くなるだろうから、より時間的な余裕が増えるな。
よぉぉぉし!
ここは、一気に突破を目指してしまおうじゃないかっ!
俄然やる気になって来た私がいた……その時だ。
「……ん? 何だこれは?」
「お~? おっき文字が書いてありゅ~。炎は頼りになるよ~って書いてありゅ~」
大きな岩壁と、その文字が書いてあるエリアにやって来た。
「うーむぅ……なるほど。月の立て札の時もそうだったが、きっとこれも一つのヒントなんだろうなぁ」
私は唸り声を出しながらも、アリンの言葉に声を返した。
最初の入り口にあった立て札は、満月の見える階層でのヒントを私にくれていた。
最初は何らかの罠である可能性も視野に置いていたんだが……完全な杞憂に終わっている。
すると、今回も岩壁に書かれていた文字は、この階層に置ける大きなヒントになるのだろう。
相変わらず精霊文字で書かれていると言う事以外は、特筆する様な物はない。
恐らく、なんらかの仕掛けが、この文字に隠されていると言う事もないだろう。
「これも素直に『炎に頼れ』と言う事だとは思いますが……どう言う形で炎に頼るのかは分かりかねますねぇ……」
唸る私がいた所で、ユニクスも少し思案に耽る顔になっていた。
確かにそうだな。
文字を見る限りだと、この階層の炎は味方になってくれる炎がいますよ……と言うヒントをくれてはいるのだが、具体的に何処でどんな風に炎が助けてくれるのかまでは書かれていない。
まぁ……全部を書いたら、もはやそれはヒントでもなんでもなく、単なる答えになってしまうからな。
そう言った部分は自分で調べろと言う事だろう。
ま……ダンジョン攻略をしてるんだから、自分で答えを見付けるのは当然か。
だけど、そうなると……助けてくれる炎ってのは……一体、何を示してるんだろうな?
一頻り悩む私とユニクスの二人がいた時だ。
「あ! あっちに、すんごぉ~くでっかいモンスターがいりゅお~! でっかい! がおーっ! って言いそう! すっごい! 怪獣みたいだお~」
キャッキャッ♪ とはしゃぎながら叫ぶアリンの声が、私の耳に転がって来た。
でっかい、怪獣みたいなモンスターだと?
そこで、私はアリンが見ているだろう方向へと顔を向けると……ああ、本当だ、マジでデカイ。
目寸法なので、かなり曖昧にはなってしまうが、軽く7~8メートルはある。
姿的に言うのなら、オーソドックスにドラゴンだ。
もう、これがドラゴンじゃなかったのなら、他にどんな物をドラゴンと表現して良いのか分からないぐらいに典型的なドラゴンしてた。
「あれは、レッドドラゴンでしょうか? ふぅむ……」
巨大なレッドドラゴンを見据えたユニクスは、依然として悩むしぐさのまま口だけを動かし……そして、歩き出した。
「炎は強くて頼れる……あのレッドドラゴンは、紅蓮の炎を彷彿させるまでに真っ赤なドラゴン。すると……もしかすると、この岩壁に描かれている意味は、あのドラゴンが我々を助けてくれる暗示なのかも知れません」
……そ、そうか?
私には、ちょっとそうには見えないんだが……?
精霊文字で書かれていた内容は、飽くまでも『炎に頼れ』と書いてあった。
そこに何らかの捻りが加わっている様には見えないし……炎を連想させる存在が頼れると言う感じの引っ掻け染みた文脈もある様にも見えない訳で……。
つまり、ユニクスの主張には若干の無理がある気がしてならな……。
「ちょっと、ドラゴンに交渉を求めてみます」
……って、おい!
「え? あ、待て! ユニクス!」
良く分からないが、無駄にやる気になっていたユニクスがいた。
ここに来て、やたらモチベーションが上がっている模様だ。
そこに関しては別段、問題はないと言うか……まぁ、やる気があって結構と言うべきなのかも知れないが……少し無謀過ぎやしないか?
止めに入るのが少し遅かった関係もあり、ユニクスは一人でレッドドラゴンへの交渉(?)を試みる役を買って出る形でやってみせた。
「さぁ、レッドドラゴン! 私達を迷宮の奥まで導くのだ!」
大きく手を開き……まるで某歌劇団の劇団員の様な華やかな笑顔を爽やかに見せていた。




