借金完済目指し、黄金島【20】
「……ああ、まるで神様の様な人……本当に、この御恩は一生忘れません」
女性冒険者は涙を流しながらも、何度も私に頭を垂れていた。
そこまでしなくても良いのに。
「別に、大した事はしてないから、頭を上げてくれないか? なんと言うか……照れ臭い」
私は台詞通りに照れ臭い顔になって女性冒険者へと声を向けていた。
ユニクスのヤツが、いきなり私目掛けてフライングボディアタックを軽やかに決めて来たのは、ここから間もなくの事だ。
ドカァァァッッ!
「ぐわぶぇっ!」
あたかも人間ロケットにでもなったかの様な勢いで飛んで来たユニクスにより、私はヒキガエル染みた悲鳴を上げて倒れる。
人が珍しく格好付けてた所で、いきなり何をしてくれちゃってんのっ!? 私は格好付けては行けないキャラだと言いたいのか? ふざけんなよっっ!?
「リダ様! 大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫な訳あるかっ! いきなり体当たりとか……お前、私に爆破されたいのかっ!?」
「ち、ちちち、違いますリダ様っ!? あの牛男……実は予想以上の手練れでして!」
「だから言ってたろうっ!? お前の実力だと結構大変だと!」
全く! 人の話はちゃんと聞く物だ!
そこら辺で私は気付いた。
「所で、約束の時間だった三分は、もう越えてるよな?」
私は懐中時計を軽く見据えながらユニクスへと尋ねた。
大まかな時間しか覚えてないから、どの程度の時間が経過しているのかまでは把握していないが……確実に三分以上は経過しているな?
だからだろう。
私の台詞を耳にしたユニクスは、ギクゥッ! って感じの顔色になって、目線を遠くに向けていた。
ついでに言うと、遠くに向けていた目はあからさまに泳いでいた。
もう、華麗にクロールしてた。
「えぇ……と……そのぅ……もしかしたら、実はまだ五分ぐらいあったかも知れませんよ、リダ様?」
三分と言っていたのに、残り五分もある訳がないだろうにっ!
「ともかく、そろそろ交代だ。お前まで怪我されて、余計な手間が増えたら困るのは私でもあるしな」
吐き捨てる形で答えた私は、牛男がいる洞穴へと素早く向かった。
どうやらコイツは、洞穴の一定エリアからは出ないらしい。
どうしてそうなっているのかは知らないが……恐らく、このダンジョンを作った管理者がそうさせているんだろう。
どちらにせよ、私にとっては関係のない話だ。
私の考えは至ってシンプル。
人の邪魔をする相手は敵だ。
そして、相手が敵である以上は、ぶん殴るのみ。
ドゴォッッッ!
牛男がいる洞穴の中に入った直後、私は勢いそのままに跳躍し、牛男の顔目掛けて鉄拳を振るった。
私の拳は牛男の右頬辺りをジャストミートし、
バゴォォォッッッンッッ!
次の瞬間には洞穴の端にある壁へと激突していた。
少し不意を突いた形にはなってしまったが、完全に手応えのある一撃だった。
実際問題、吹き飛んで壁に激突していた牛男はピクピクと身体を痙攣させるだけで動く様子がない。
うむ、一発で済んだか。
ユニクスが結構苦戦していた相手だっただけに、もう少し骨のある相手かと思ったんだが……どうやら、そこまででもない模様だな。
「……一発で沈めてしまいますか……はは……」
アッサリとノックアウトしていた牛男を見て、ユニクスは口元を引き釣らせながらも私に言う。
その目は、少しばかり化物を見る様な目に……って、待て!
「どうでも良いけど、私は化物って訳ではないぞ? 普通の人間だからな?」
「普通の人間は、複製とは言えミノタウロスを一発でノックアウトする様な事は出来ないと思うのですが……」
「そんな事あるか! 人間、努力に努力を重ねさえすれば、大体の事は可能になるんだからな!」
「それにしても、限度と言う物が……」
そこから、また何かユニクスが言おうとしていたけど、敢えて耳を貸す事はしなかった。
どう考えても、人を化物扱いしたいだけに感じたからなっ!
私は化物なんかじゃないと、己の主張だけをして退散して置こう! うん、そうしよう! 決して、ユニクスに反論出来るだけの台詞を持ち合わせていなかったから、話を強引に中止した訳じゃないぞ?
でも、決定打に欠ける所はあるな! そんな訳で、この話はこれでおしまいだ!
「お~。流石はか~たまだお。ユニクスが頑張っても倒せなかったモーモーを、簡単にやっつけたお~!」
他方のアリンは、素直に私を誉めてくれた。
目も、やっぱり尊敬チックな眼差しだ。
ふふ……そうだろう、そうだろう!
見たかユニクス!
私に対する態度と言うのは、こうするのが正しい選択なのだ!
やっぱりアリンは私の娘だな? 私の扱い方が良く分かっている!
「あっはっは! か~たまに任せて置けば、なんでも上手く行くんだぞ~?」
「あっはっは! 分かったんだお~! か~たまに任せるお! だから、ハーピー人形を買ってほしいお~っ!?」
お前、まだ諦めてなかったのか……?




