借金完済目指し、黄金島【18】
洞穴の中で、冒険者達に猛威を振るっていたのは……牛人間って所か?
頭が牛で、筋骨粒々なマッチョ巨人だった。
大きさは、目寸法ながらも三メートルはあるだろうか?
もう、ダンジョンでは比較的お馴染みのモンスターでもあるかな?
「あれは……ミノタウロスでしょうか?」
そこで、隣に立っているユニクスが、それとなく私に向かって尋ねて来た。
この言葉に、私も軽くコクンと頷きを返してみせた。
「恐らく、ミノタウロスの複製って所だろうな? こないだの魔狼と同じで、太古のモンスターから出た化石を元に作られたモンスターなんじゃないかと思うぞ?」
何が目的で、こんな物を作りたいのか知らないが、私なりの予測からするとそうだ。
前回の上位魔導師の試験で遭遇した魔狼と同じで、気紛れな魔導師が大昔の化石を元にして作り出した複製モンスターの類いだろう。
仮に本物のミノタウロスであったのなら、如何に百年迷宮とは言え、序盤の中ボスみたいな所で門番なんぞして居ない。
神々が作った堅牢な地下牢の最下層に閉じ込められている、最大最悪のモンスターがミノタウロスだ。
神様の血まで混じっているので、その強さはハッキリ言ってえげつないレベルでもある。
もちろん、オリジナルが相手であったのなら、私も本気で戦う必要があったろうな?
だが、所詮はコピー。
「……ま、私の敵じゃないね。取り敢えず一発ぶん殴って終わるだろ?」
答え、私はミノタウロスがいる洞穴へと足を向けた。
「あ、リダ様! 待って下さい! もしあのミノタウロスが複製モンスターであるとすれば、リダ様が直々に手を下すまでもなく、このユニクスが倒してみせましょう!」
……は?
瞳を輝かせ、意気揚々と張り切って言い放つユニクスに、私は目がテンになってしまった。
そこから眉を捩ってしまう。
「ミノタウロスの複製と言っても、それなりの強さを誇っているぞ?……見ろ? レベル的にかなりの腕前を持っている冒険者達が束になって掛かっていると言うのに、戦況は五分五分……いや、少し分が悪いぐらいだ」
「お言葉ですが、リダ様。私はあなた様の忠臣にして、あなた様の右腕を務める者。あの程度のモンスターに遅れを取る様な者では、右腕を名乗る資格なぞございません!」
「なら、名乗るな」
「分かりました! 今後は右腕とは名乗りま……ちょっ!? リダ様! そこは違う返しがありませんかっ!? アッサリ否定されまくってるじゃないですか! 少しは私にも格好を付けさせて下さいよぉぉっっ!?」
ユニクスは半べそになって叫んだ。
……ああ、もう……面倒臭いヤツだな。
「仕方ないな……ただし三分だぞ? 三分経っても倒せない様なら、私があの牛をハッ倒す。いいな?」
「かしこまりましたリダ様! 三分もお時間を頂き、誠に恐悦至極! このチャンス、絶対にモノにしてみせます!」
半ベソだったユニクスは……しかし、次の瞬間にはもう立ち直り、再びテンションを高くしてミノタウロスもどきへと走り出して行った。
……やれやれ。
私やアリンからすれば他愛のないレベルのモンスターではあるが、ユニクスには幾分か荷の重い相手にみえるんだがな?
しかし、ユニクスもあれで結構な努力家だ。
もしかしたら、私が考えている以上に精進し、私の予測を大幅に越えた実力を手に入れたのかも知れない。
「…………くっ! やるなっ!」
だけど、少し苦戦してる感じだった。
意気込み勇んで向かい、やや格好付ける形で攻撃をしたが、見事に読まれてしまい……盛大にスカっていた。
挙げ句、カウンターで鉄拳を喰らい、軽く吹き飛んでたりする。
…………。
本当に大丈夫だろうか?
「か~たま! 大変だお!」
少しばかりユニクスが心配になってしまい、やっぱり多少は手助けをしてやろうかと考えていた頃、アリンが血相を変えて私へと叫んで見せる。
「……ん? どうした、アリン?」
「何処の誰か分からないけど、あなたさんが死にそうなんだお!」
私には、アリンちゃんの言いたい事が今一つ良く分からないんだが?
取り敢えず、誰かが瀕死の重傷を負っていると言う事か?
「良くは分からないが、大変な事になっているんだな」
他人事の様に呟く私がいた所で、
「そうなんだお! 良くは分からないけど、大変な事になってるんだお! アリンじゃ治せないから、か~たまに助けて欲しいおっ!」
遮二無二焦りながらもアリンが叫び、私の手を引っ張ってみせた。




