借金完済目指し、黄金島【16】
「ああ! リダ様! 私とも手を繋ぎましょう! さぁ、早くっ!」
……って、まだ茶番を続ける気か?
「お前なぁ……アリンは子供なんだぞ? また迷子になったら困るだろう?」
だから、こうやって手を繋いでいるだけの話であって、お前と手を繋ぐ理由なんて塵も芥もないだろうに?
「リダ様は分かってない! いつもいつもアリンにばかり特別扱いをして! もうぅ! 私とリダ様の関係はなんだと言うのですかっ!?」
「学友」
「それだけの関係っ!?」
ユニクスは愕然となって倒れた。
膝から折れる形で地面に倒れていた。
まるで、ハードパンチャーの一撃をモロに喰らったボクサーみたいな倒れ方をしてた。
取り敢えず、面倒だからそのままにして置いた。
近くのモンスターに食われてしまわない事だけを祈って置くか。
「あああああっっ! リ、リダ様! まってぇぇぇぇっ!?」
そこから数秒もせずに私達の所まで走って来る。
うむ……どうやら、全てが杞憂に終わった模様だ。
「最初から、素直にそうしておけ」
「いや……だって……です。私もリダ様と手を繋ぎ……ああ、はいっ! 行きましょう! 借金を返済する為のダンジョン攻略なのですから、真剣にかつ真面目にやらないと!」
未だブツブツと口を尖らせているユニクスがいたので右手をスゥ……っと向けると、途端にシャキッッ! っとした顔になって、先導するかの様に先を早足で歩き始めた。
全く……最初からそうして置けと言いたい。
「それにしても、リダ様? 道はここで当たっているのですか? 先程から……ずっと荒野の草原みたいな状態が続いているだけに見えるのですが……?」
程なくして、不思議そうなユニクスの質問が、私の耳に転がって来た。
「恐らくは正しい」
私は、自分なりの予測を交えた答えを口にする。
こんな事を言うのは他でもない。
正直、完全に当たっていると言う確信を持って進んでいる訳ではないからだ。
しかし、全く根拠がないと言うのなら、実はそうでもない。
「恐らく……ですか?」
ややニュアンス的に怪しいとでも思ったのか?
ちょっとだけ怪訝な顔になって言うユニクス。
「まぁ、私もだ? 確信を持っている訳ではないから、その様な言い回しになっているんだ……が、現状で根拠に値する情報が、これしかなかったからな?」
言って間もなく、私はユニクスのメモを見せた。
これは、本当の意味でこのダンジョンの入り口を示す場所に設置されていた立て札の文字だ。
立て札には精霊文字で書かれていたのだが、それだと分かりにくいと思ったので、大陸共通語で翻訳した物を書き写している。
「これは……なんですか?」
「厳密には、私にも分からない……が、このダンジョンの入り口付近にあった立て札に書いてあった物だ。もしかしたら何らかのヒントになるんじゃないかと思ってな?」
「そうですか……なるほど」
私の書いたメモを軽く読みながらも、ユニクスは相づち混じりの台詞を口にしていた。
「お? こんなのあったんだお? アリン、ちっとも分かんなかったお~」
そりゃ、アリンは周囲のマラソン冒険者達と一緒に、全力でかけっこしてたからな……。
取り敢えず、アリンにも見せる。
「お? お~?」
メモを読んで間もなく、アリンは周囲をキョロキョロと見回した。
そして、
「そかー! 分かったおー? 月の闇って、あれだお!」
おおおお! 流石はアリンちゃん、直ぐに気付いたか!
アリンは間もなくポールの辺りを指差して答える。
こう言う謎解きってのは、やっぱり柔軟な思考が物を言うよな?
そう言った意味では、幼児の方が発想が柔軟だから、すぐに思い付いてしまうのかも知れない。
まぁ……思い付きと感覚だけで行動してしまうのが、タマにキズではあるんだけどな!
そこはともかく。
「あのデッカイ棒がおかしいお! 影が変だお? 本当なら、影の出りゅ所が違うんだお~」
アリンはズバリ言って来る。
この台詞を耳にして、ユニクスもハッとなった。
「た……確かに……どう言う意味で立てられているのかは不明だが、満月の光に当てられて生まれている筈の影が、不自然な方角に影を作り出している……」
そして、その影が指す方角へと、私達は進んでいる。
何故か?
これが、立て札に書いてあった物であったからだ。
月の闇に導かれる事。
己の勇気を見せよ。
月の光はいつも正直だ。
箇条書きにすると、この三点が立て札に書かれていた事になるのだが……今回は、一番最初に書かれている『月の闇に導かれる事』と言う点に刮目したい。
月の闇……と、だけ聞くと、一体何を指しているのか?
ハッキリ言って謎めいた内容になってしまう。
だが、ここにポールがあれば、話は少し変わって来るのだ。




