借金完済目指し、黄金島【14】
さて、立て札に書かれていた内容なのだが……うーむ。
月の闇に導かれる事。己の勇気を見せよ。月の光はいつも正直だ。
立て札に書かれていた内容を読むと、この様な事が書かれている事が分かった。
「なんだろうか?……これは?」
良くは分からないが、何かの暗号なんだろうか?
ともすれば、なんらかのヒントを意味する物かも知れない。
取り敢えず、メモって置こうかな。
そんな事を考えた私は、立て札に書かれている精霊文字を大陸共通語に変換する形でメモを取って行く。
「リダ様! 大変です!」
……は?
立て札を見ながらメモを取っていた頃、ユニクスが慌てた口調で私へと声を掛けて来た。
「……どうかしたのか?」
今一つ良く分からない私。
何やら凄く焦っている事だけは分かったんだが……どうしてそんなに慌てているのか? 私にはサッパリ……。
「アリンが暴れてます!」
…………は?
思わずポカンとなる私。
一体、何が起こっていると言うのか?
「一人で勝手に走って行ったアリンは、途中で私達とはぐれてしまったと思ったらしく『わーん! か~たま! か~たま、何処ぉぉぉっっ!?』と、泣き叫び……開幕早々に出現したモンスターを次々と爆破し始めてます」
……なんでそうなった?
しかしながら、話を聞く限りではモンスターが爆破されているだけだ。
もしそうであるのなら、他の冒険者にとっては都合の良い話ではないんだろうか?
「爆破の目標はモンスターなのですが、その周囲にいる冒険者も巻き添えを……」
「良し! 行こうか! 今は一秒だって無駄にする事は出来ない!」
私は即座に走り出した。
勝手にはしゃいで、勝手に走りだし……勝手に迷子になると言う、まさに三歳児の典型とも言える行為までは可愛い物ではあったんだけど……まさか、迷子になった途端に泣き始めては、周囲を爆発させまくる爆発魔になってしまう所までは予測する事が出来なかった!
ともかく、無駄な犠牲が増えない内にっ!
全力でひた走り、門を越えた先にあったのは、
「わーんっ! か~たま! か~たまぁぁぁぁっっ!」
瞳から涙をボロボロこぼし、鼻水まで垂れ流す哀愁の三歳児が無駄にボンボンッ! っと、辺りに爆破魔法を発動させていた。
この状況を見る限り、自分の感情を周囲に当たり散らす勢いだ。
そして、近くにいたモンスターを無造作に爆破している……いるんだけど。
「ぐぼわぁっ!」
……あ、アリンの爆破に巻き込まれた冒険者が吹き飛んだ。
いたたまれない気持ちになった私は、即座に治療魔法を掛けてみせる。
うちの娘が粗相をば……すいません。
ペコリと頭を下げた直後、
「こら、アリンッッ! 駄目じゃないか! こんな事して!」
私は即行でアリンへと叫んで見せる。
結果、爆発音がやんだ。
……やれやれ。
「か~たま! 何処に行ってたんだお! 勝手に居なくなっちゃメッ! だぉぉぉっっ!?」
勝手に居なくなったのはお前だろうに……。
こんな事を考えつつも、私は泣き付いて来るアリンを受け止めながらも周囲を軽く見回した。
……うぁ……なんか、あちこち爆破されていて、中々に悲惨な状態に……。
これ……どうしよう?
顔を蒼白にし、嫌な汗を額から滲ませる私がいたのだが……程なくして、アリンに爆破された事で発生していたのだろうクレーターが音もなく修復されて行く。
……へ?
私は、ポカンとなる。
どうやら、魔法の類いで破損されてしまっても、ダンジョンが自己修復して行く模様である。
私としてはちょっと助かった。
反面、爆破に巻き込まれた冒険者の回復はされておらず……まぁ、ここは私が回復して行くしか他に方法はなさそうだ。
「うちの娘がすいません……」
「いや、かまわないさ……はは、それにしてもアンタの所のチビッ子ちゃんは凄まじいな? どうだい? 一緒にパーティーを組まないか?」
謝りながらも回復魔法を発動させて行った私は、巻き添えを喰らった面々に怒られる事を覚悟しながら声を掛けて行ったんだが……存外、非難がましい台詞を言う人間は一人もいなかった。
……うむ。
やはり、高難度ダンジョンの冒険者。
レベルも高い冒険者だけに、それ相応の人格を持っている模様だ。
これが、もっとレベルの低いダンジョンであったのなら、冒険者の性質もかなり粗悪な状態であったに違いない。
そう考えると、やっぱり今回のダンジョンは色々な意味でレベルが高いのかも知れないな。
「ごめんなしゃい……」
アリンも一緒になって謝ってみせる。
うむ、良い子だ。
だけど、もう勝手な真似はしないでくれよ!




