借金完済目指し、黄金島【5】
超速で滑空した私達は、二十分程度で黄金島と呼ばれるサァドの島にやって来る。
割りと全力で飛ばして来たから、最初はアリンがついて来れるか心配ではあったが……数分程度で杞憂に終わった。
全然普通について来たアリンは、余裕を持って飛んでいたからだ。
速度的に言うのなら、超音速程度の早さはあったと思うんだが……それでもついて来れる三歳児には、毎度の事ながら驚かされてしまう。
しかしながら、その甲斐もあって予定を大幅に上回る早さで黄金島へと到着してしまった。
だからと言うのも変な話ではあるが、今は少し余裕を持って行動をしている。
手回しの良いアシュアが、先にサァドの街にあるホテルに予約を入れて置いてくれたみたいなので、本日はそこで一泊と言う事になりそうだな。
話を聞く限りだと、黄金島の百年迷宮が復活するのは、明日の昼間十二時なんだそうだ。
これは、大体のダンジョンでそうなのだが、どう言う訳か? ダンジョンが復活するのは何処も一律で昼の十二時だったりもする。
どうして昼の十二時なのか? それは目下謎らしい。
ダンジョンの研究をしている人間も、色々と調査をしているらしいのだが……今の所、どうして十二時キッカリにダンジョンが復活するのか? その理由は未だ完全には解明されてはいないんだそうだ。
……まぁ、私はダンジョンを研究している学者でもなんでもないので、そこはそう言う物なんだと思うだけで終わる話ではあるんだけどな?
なんにせよ、ダンジョンが復活するのは明日の十二時。
それまでは、特にする事もないので、軽く観光でもして置こうかと思う。
ハッキリ言って、観光を楽しむだけの余力と言うか……金などないと言うのが正直な話ではあったんだが……アシュアが餞別だと言って多少の金を私に恵んでくれた。
普段の私であるのなら、こんな乞食紛いな金など貰ったりはしないのだが……いかんせん、今の私は文無しも近い状況であった為、今回は甘んじてアシュアからの餞別を頂く事にしたのだ。
そこらの関係もあり、多少ではあるが懐に余裕がある私。
自分の財布に、これだけの一万マール紙幣を入れたのはいつぶりだろう?
現役の冒険者をしていた時、以来なんじゃないだろうか?
思えば、好き勝手にクエストをこなしては生計を立てていた時が、一番楽しくて……裕福だった気がする。
何処でどう間違って会長なんて職に就いてしまったんだろう?
ただの冒険者をしていれば、今の様に金で困る様な事もなかったろうになぁ……?
「そこは深く考えない様にしよう……」
私は誰に言う訳でもなく独りごちた。
きっと、考えれば考えるだけ虚しくなるだけだ。
それに、あのまま冒険者を続けていたら、
「お? か~たま? どうしたんだお? そんなに疲れた顔して……また、アリンが変な事したお?」
こんな事を言って私を心配してくれる愛娘が側にいる事はなかったであろう。
この娘のお陰で、母はかなり大変な思いをする羽目になってはいる……いるけど、可愛い愛娘であるが故に、私は頑張る事が出来る。
同時に思うんだ。
世の中、金ばかりが幸福を左右する物ではないよな……と。
幸せは金じゃ買えない。
金で買えるのは……精々、自分の欲望程度だ。
自分の中にある物欲を満たす事……それだけなんだ。
裕福である事は決して悪くはないし、それはそれで結構な事ではあるんだけど……根本的に金ではどうする事の出来ない物の方が、実は色々と大切であり、かけがえのないモノでもある。
そう考えるのなら……私は、ただの冒険者ではなく、今の自分であれた事を嬉しく思う。
だって、こんなに可愛い娘が近くにいてくれるのだから。
「大丈夫だぞ、アリン? お前は何もしてない。だから、そんな顔をしてないで笑ってなさい。笑った顔が、か~たまは一番大好きだし、元気が貰えると思うんだ」
「そうなんだお? うん! 分かったお! 笑うお~!」
そこからアリンは『あっはっはっは!』と、馬鹿っぽく笑った。
そう言う笑いではなかっただけどぁ……もっと、ナチュラルにニコッ! っとしているだけで良かったんだぞ?
こんな事を考える私ではあったが、口には敢えて出さなかった。
今のアリンが見せる態度……それは、三歳児なりに工夫して、私を元気にしようと精一杯頑張った末に行っている事であったからだ。
よぉ~し! 元気でた!
「リダ様……はぁはぁ……や、やっと追い付きましたぁ……」
でも、幻聴が聞こえてるから、やっぱり疲れてるのかもっ!?
直後、私の耳に予期せぬ謎の声が転がって来た。
いやいや! 待って?
これでも私、学園の面々には不要な心配をさせたくなくて、黙って出て行ったんだぞっ!?
それなのに、どうしてお前の声が聞こえてるんだ? ユニクスッッ!?




