百貨店、爆発する【21】
ハッキリ言って私の予測は大幅にオーバーしまくっている!
もう、1マールだって無駄に金を使う事なんか出来ないレベルだ。
そんな……エンゲル係数が途方もない勢いで急上昇している危機的状態で、アリンにオモチャコーナーを見せると言う事は、とうとう私の預金残高がクライマックスを迎える事になってしまう。
思いきり笑えない……いや、むしろ笑ってしまうかも知れない。
渇いた笑いだけどなっっ!?
だが、私の経済事情なんか最初から無視された状態で、虚しくもオモチャ売り場へと向かう事になって行く。
果たして。
「お、おぉぉぉぉぉぉっっっ!」
アリンの瞳が、キュピーンッッッ! っと光った。
まずい! 非常にまずい!
その目は、ハンターが獲物を狙う時に見せる瞳だ! あかんパターンなやつだっ!
アリンの前にあったのは……なんだろ? これ? ハーピー?
両手が翼になっている少女の人形で……まぁ、予想以上に生々しい人形だった。
やたら精巧に出来ていて、ちょっとビックリする様な出来映えではあるんだが、
「か、か……かわいいおぉぉぉぉぉぉっっっ!?」
アリンは絶叫していた。
可愛いのか? これ?
そりゃま……女の子チックな人形だから、可愛いと言えば可愛いかも知れないが、リアルをやたら追求し過ぎていて、おおよそ可愛いと言う表現からは逸脱している様な気がするんだが……?
なんとも微妙な顔になってしまう私がいる中……キラキラした眼差しでアリンはハーピーの人形を見据えていた。
しばらくして。
「か~たま!」
「ダメ」
「まだ、何も言ってないおぉぉぉぉぉぉっっっ!」
アリンはむくれた。
もう、これでもかってぐらいに怒っていた。
そりゃ、それだけ露骨な態度をみせていれば、次にアリンが言う事場なんて決まっている。
そこらを考慮するのであれば、先手を打って否定の言葉を口にするのは自然の流れと言う物だろう。
「ともかく言いたい事は分かる。びっくりするぐらいに分かる。だから言うぞ? アリン。か~たまはもうお金がない! 少なくとも、ハーピーの姿をしたおかしな人形を買うだけのお金があるのなら、何か栄養になる様な物を買った方が良いぐらいにない! 分かったか!」
「分かんないおぉぉぉぉぉぉっっっ!」
なんて聞き分けのないぃっ!
私は私なりにきちんと話をしたと言うのに! 全くこの子はっ!?
「ともかく! ダメな物はダメだ! アリン! お前はもう少し我慢って事を覚えろ! なんでもかんでも泣いて喚けば買って貰えると思ったら大間違いだ! 今回は誰がなんと言おうとダメ! 次の給料が貰えるまでは我慢しなさい!」
「我慢出来ないお! 今すぐ欲しい! 欲しいおぉぉぉぉぉぉっっっ!」
ああ、もうっ! こうなるから、アリンをこのフロアに連れて来たくなかったんだっ!
心の底から辟易する私がいる中、
「そのぐらい買って上げなよリダ……ほら、見て? 価格だって安いよ? 1980マールだよ? 今度は桁も間違ってないしさ? このクオリティーでこの値段なら十分な良心価格だと思うし……」
フラウがアリンに味方をする様な台詞を口にして来る。
お前は……上位魔導師の試験で助けてやったと言うのに……それでも、アリンの味方をするのかよ……。
「価格の問題じゃない! 我慢を覚えると言う教育の問題だ!」
この調子で行くと、どんな物であってもワンワン泣けば何とかなると勘違いするかも知れない。
根本的にそんな考えは却下だ!
大体……私だけじゃなくて、他のヤツにも同じ事をして見ろ? なんてワガママな娘なんだ? まったく親の顔が見たいね! とかって思われるに違いないんだ!
私は他人様から呆れられる様な親になんかなりたくはないし、アリンにも他人に呆れられる様なバカな子になんてなって欲しくない!
「ほら、行くぞアリン! 人形は置いてけ! 良い子にしてたら後で買ってやるから!」
「嫌だおっ! 今すぐ欲しいおっ! もう、このハーピーちゃん人形はアリンが買うんだおっっ!」
本当に聞き分けのない事を言うなっ!
お前は何処の五歳児だ?
……いや、違う! 三歳児だった!
くそ……そうか、思えばアリンが無駄に聞き分けのない事を言ってもおかしくはない年齢でもあったのか……って違う!
何を考えてるんだ、私っ!? 自分で考えて、自分で納得している場合かっ!?
ともかく、今回はしっかりキッチリ! 完全にダメと言うべきだ!
私はイエスしか言わない女ではないと言う所をしっかり娘にみせてやるぞっ!




